チャーリーXCXが語る、弱さと強さ、絶望と希望、すべてをさらけ出すポップスターの覚悟

「自分自身を押さえつけ、コントロールすることに今はすごく苦労してる」

続く「Lightning」はハイライトの1つであり、悲しみに暮れながらダンスフロアに飛び込んでいくようなムードはロビンの代表曲を彷彿とさせる。“失恋の痛みならもう知ってる、同じ思いをすることはないって聞いてたのに”と嘆く彼女は雷に打たれたかのような衝撃を味わう。同曲をプロデュースしたのは、同じく『True Romance』にも参加していたアリエル・レヒトシェイドだ。次曲の「Every Rule」では、『ツイン・ピークス』のBGMに使われていそうなトラックをバックにある恋愛の行く末を描く。『how I’m feeling now』の制作を始める「はるか昔」にA.G.クックとワンオートリックス・ポイント・ネヴァーと共作した同曲は、長い交際の末に別れたパートナーとの関係を歌ったものだ。「出会いの衝撃について歌うのは変な気分だった。真摯で美しいラブストーリーだけど、もう終わった恋だし、聴くたびに当時のことを思い出して傷口をえぐられるような気分になるから。お互いが出会った時に感じた、全身に電気が走ったような衝撃が表現できてると思う。自分が経験したことをありのままに描いた偽りのない曲だから、すごく思い入れがあるの」





他の曲群では、ある瞬間を境に惹かれていた相手への想いが急速に醒めてしまい、それが長期的な恋愛関係を終わらせる理由として正当なものだったのかと悩んだり、あるいは性懲りも無くまた自分自身を傷つけてしまったことに対する罪悪感など、誰もが身に覚えのある経験がテーマとなっている。


Givenchyのイヤリングを身につけたチャーリーXCX(Photo by Jack Bridgland)

当初このアルバムは、狡猾で腐敗したメジャーレーベルの犠牲者にされてしまうポップスターというコンセプトを掲げていた。アルバム5枚分のレコード契約を交わしたAtlanticからの最後のリリースとなる本作で、彼女はアーティストとして自律性とクリエイティブ面における自由を訴えるつもりだった。流血しているビキニ姿の彼女がボンネットに這いつくばっているというジャケットからも、『CRASH』がJ.G.バラードの同名の小説へのオマージュであることは明らかだ。同作では、過去に交通事故に遭った主人公が事故の状況を再現することで性的興奮を得ようとする。

「メジャーレーベルのお決まりのやり方でアルバムを作ったことは一度もない」。エイチソンは『CRASH』についてそう話す。「16歳の頃からメジャーレーベルにいながら、常に自分のやり方を貫いてきた私がこのアルバムで契約を満了することには意味があると感じてる」。その道のりは決して平坦ではなかった。各ストリーミングプラットフォームに積極的にピッチしつつ、ビジュアル面のイメージを徹底的に管理し、質問に対する返答から作品のリリースまで、あらゆるプロセスの遅さに焦りを覚えながらも辛抱強く待った。「我慢することと時間をかけるってことを学んでるところ。だからネットを見てる時間が長くなっちゃうんだと思う。プロモーション活動やインタビューを山ほどこなしてる私はそういうのが得意だと思われてるかもしれないけど、本当は大嫌い」

過去のアルバムキャンペーンにおけるカバーストーリーの取材では、夜遊びの場をセッティングしたり、スパでシャンパンを飲みながらジャーナリストのインタビューを受けていたのに対し、今回の取材は30分間のビデオ通話だ。取材を受けるが嫌になったのか、それとも世間から誤解されることを危惧しているのかと訊くと、わずかな沈黙を挟んで彼女はこう言った。「気分がいい時や、考えがまとまってる時は取材を受けるのは楽しい。でも正直、メデイアのことはあまり信用してない。最近は自己破壊願望をはっきりと感じてる。今こうして電話で話してる最中も、自分が築いてきたものを壊したいっていう無茶な願望を抑えようと必死なの。自分自身を押さえつけ、コントロールすることに今はすごく苦労してる」

Translated by Masaaki Yoshida

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