チャーリーXCXが語る、弱さと強さ、絶望と希望、すべてをさらけ出すポップスターの覚悟

「私はファンのことを本気でリスペクトしてる」

辛辣で容赦ないが、ファンは彼女にとってかけがえのない存在だ。パンデミックの最中に発表された、日記のような親密さを宿した『how i’m feeling now』のビジュアル面や収録曲の選定、そしてプロモーションに至るまで、彼女はファンに助言を求めた。「私はファンのことを本気でリスペクトしてるし、みんながいてくれることにすごく感謝してる。少し独善的なくらいじゃないと、チャーリーXCXの真のファンとは言えない。時にはものすごく手厳しいけど、それも含めてありがたく思ってる」



彼女が口にしたファンへの感謝の気持ちは、決して単なるリップサービスではない。チャーリーXCXのファンアカウントである「Charli XCX Updates」の運営者は、まだ発表されていなかったパンデミックアルバムの企画について彼女から直接メッセージをもらった時のことをはっきりと覚えている。それ以来、2人は頻繁にやり取りを交わしているという。「仕事とプライベート面の両方で、彼女からはアドバイスをもらっています」とその人物は話す。「私が何かについて意見を求めると、彼女は回答の内容をじっくりと考えてくれるんです」。エイチソンとファンの持ちつ持たれつの関係は、パンデミックの最中に話題を呼んだアルバムの1つである同作を生み出したが、それは彼女とファンの距離を著しく縮め、結果的に彼女はファンの様々な声に対して脆く敏感になってしまった。


Versaceのジャケット、House of Harlotのビキニを着たチャーリーXCX(Photo by Jack Bridgland)

数日後にTwitter上でファンによって気分を害されたにも関わらず、彼女(マネジメントチームによる投稿ということになっているが、ソーシャルメディアから距離を置くと公言する人の大半と同じように、彼女もまたこっそり使い始めているのかもしれない)は新たなグッズの写真を投稿した。チャーリーXCX肛門洗浄液というそのアイテムは、あるゲイのファンがミート&グリートの場で彼女に洗浄液へのサインをねだったという内輪ネタにちなんでいる。ポップスターは数いれど、ゲイのファンベースをこういった方法で楽しませるユーモアのセンスを備えているのは彼女くらいだろう。インターネット言語に関しては、エイチソンは自身の役目を理解しており、世間の期待に応え続けている。ポップ愛好家たちは認めないかもしれないが、そういった人々は基本的に彼女のビジョンから5歩(あるいは5年)遅れている。

「パリス・ヒルトンやリンジー・ローハンが圧倒的なカリスマだった2000年代初頭は最高だった。それはミュージシャンにも言えることだと思う。大好きなミュージシャンには衝撃を与えて欲しいし、驚かせ、苛立たせ、脳内を思いっきりかき乱して欲しい」

彼女のビジョンは常に複雑だった。キャリア初期、エイチソンは実験的なポップアーティストと単純明快なヒットメーカーの狭間で揺れ動いていた。問答無用にキャッチーな「I Love It」や「Boom Clap」、そして「Fancy」でのボーカルパフォーマンスによって、彼女は一般的なポップリスナーの間で認知されるようになった。その一方で、彼女は1stアルバムではハウスに傾倒していたし、「ポップの未来」と言われたロンドンを拠点とするアンダーグラウンドのレーベルPC Musicにいち早く目をつけていた。同レーベルを率いるA.G.クックは彼女のクリエイティブディレクターとなり、彼女は彼の周辺のアーティストと幾度となくコラボレートしている。現在でこそカルトクラシックとして認知されているソフィーとの共作、『Vroom Vroom EP』に対する評価は2015年時点では大きく分かれ、実験色が強すぎ理由もなく尖っているという見方もあった。だがファンからの人気は高く、クィアの人々向けのメディアは彼女のことを「『Vroom Vroom』で知られるシンガー」と表現することも多い。



リゾ、クリスティン・アンド・ザ・クイーンズ、トロイ・シヴァンをゲストに迎えた2019年作『Charli』には、アーバンポップをメインストリームに持ち込もうという意図が明確に見てとれた。キャリアの最初の10年間でスマートで反体制的な存在というイメージを確立した後、彼女は『how i’m feeling now』で世界を驚かせた。来る最高傑作にして最も親しみやすい最新アルバムは、彼女のキャリアにおけるターニングポイントとなるだろう。

Translated by Masaaki Yoshida

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