チャーリーXCXが語る、弱さと強さ、絶望と希望、すべてをさらけ出すポップスターの覚悟

完全に突き抜けるために

ニューアルバムにエキサイトするために、エイチソンは自分自身を驚かせる必要があった。閉鎖的な環境で急ピッチで進められた『how i’m feeling now』の制作から、彼女はあることを学んだ。「フレッシュな気分になるためには、完全に突き抜けたポップスター級のものじゃないといけなかった」。本来であれば、『CRASH』の方が先に世に出るはずだった。「New Shapes」「Good Ones」「Every Rule」 「Twice」の少なくとも一部は前作の制作に着手する前から存在していたが、パンデミックの到来によって制作が中断されていた。彼女はこのビッグで豪快なポップアルバムには自己資金を投入する価値があり、一流のポッププロデューサーを訪ねてコラボレートすることや、キャリア史上最大級のツアーを組むことができないという状況が、プロジェクトを頓挫させてしまうであろうことを理解していた。

『how I’m feeling now』が世に出た後、2020年の9月か10月の時点で彼女のフォーカスは『CRASH』に移っていた。「このアルバムはもともと『Sorry If I Hurt You』っていうタイトルにするつもりだった。文体が過去形とも現在形とも未来形とも取れるところが気に入ってた」と彼女は話す。「過去に傷付けた相手に語りかけているようにも、今まさに誰かを傷つけようとしているようにも解釈できる」

現在や未来よりも、今作の視点は主に過去に向けられている。制作を進めている間、彼女はジャネット・ジャクソンの『Control』やカメオの曲をよく聴いていた(フォーカスがブレてしまうからという理由で、基本的には自身の作品の制作期間中はあまり音楽を聴かないようにしているという)。彼女がレトロなクラシックにインスピレーションを求めるようになったきっかけは、マドンナのライブ映像や80年代のインテリアデザイン、『ファスタープッシーキャット キル!キル!』等の映画に惹かれたことだった。そういったテイストは、自身の墓石にまたがる「Good Ones」のミュージックビデオの俗っぽさや、同曲のジャケットに見られるボリューミーなヘアスタイルや無表情ぶりにも現れている。アルバムのビジュアル面にはセックスプロイテーションムービーや映画『エルヴァイラ』、そしてパット・ベネターからの影響も見られる。




Photo by Jack Bridgland

広大なランドスケープ、雷雲で覆われた空、原色、そして悲しい物語の舞台となる半分ほど埋まっただだっ広いダンスフロアなど、『CRASH』は歌詞とサウンドの両面で80年代の音楽のドラマ性を体現している。セプテンバーの2006年作「Cry for you」(ブロンスキ・ビートによる80年代のクラシック「Smalltown Boy」を模倣した曲)をサンプリングした「Beg for you」等のトラックには、そういったムードが顕著に現れている。「昔のヒット曲をあからさまに意識するのって、今のポップミュージックのトレンドになってる。ノスタルジーをよしとする人には喜ばれるけど、フューチャリズム指向の人には却下される。私はその中間が面白いと思っているし、自分の曲がそういう風に受け止められて欲しい」と彼女は話す。彼女が見せる感情の昂ぶりもまた、80年代を想起させるところがある。ヒット曲を詰め込むという昔ながらのアルバム戦略とは無縁の、チャーリー史上屈指の出来の曲の数々を収録した『CRASH』は、性欲と愛と傷心の物語が織りなすクライマックスへと突き進んでいく。

最新シングル「Baby」は「一言で言えばセックスアンセム」だという。スマートな印象さえ受ける同曲は、快楽には痛みが伴うという事実を描く。ファンキーでセクシーな小気味のいいこのシンセトラックの冒頭で終わらない肉体的満足を約束する人物は、やがて相手のハートを木っ端微塵に砕いてやると宣言する(“あんたをズタボロにしてやる / あんたをズタボロにしてやる /あんたをズタボロにしてやる / あんたをズタボロにしてやる – 絶対に!”)。「スタジオであの曲を書いた日、私はまさにああいう気分だったの。セクシーで自信がみなぎってくるようなあの曲は、このアルバムの核の一部になってる」と彼女は話す。「1stアルバムの『True Romance』でもすごくいい仕事をしてくれたジャスティン・ライセンとの共作なんだけど、彼とまた仕事ができたのもよかった」



Translated by Masaaki Yoshida

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