She Her Her Hersが語る『Afterglow』、多彩なイメージとアイデアの源泉を探る

浮遊感と強靭なグルーヴ

─中国で受け取った熱量は、新作『Afterglow』の制作にも影響を与えましたか?

高橋:最初はそのつもりでした。『location』のリリース後に中国ツアーに出て、帰国して「さあ、ここから日本でもライブをやって「新しい僕ら』を見てもらおう」と思った矢先にコロナ禍が始まり、ライブが全てなくなってしまったんです。そのもどかしさをどこかで常に感じながら、ステイホーム期間に制作していたアルバムなので、ライブの勢いを封じ込めたアッパーな内容というよりは、『location』での手応えを確かめながら、その延長線上でじっくりと作り上げたアルバムになりましたね。実際、作り方も『location』とほとんど同じでしたし。

ただ、コロナ禍で自分自身のDTMのスキルはかなり上がったと思っています。『location』の時はまだ打ち込みとか全然できていなかったんですけど、そこからしっかり覚えていったおかげでシンセのアプローチなどもどんどん変わってきて。それは自分的にもかなり大きかったですね。やれることもどんどん増えてきているので、あのステイホーム期間がもしなかったら、今とは全く違っていただろうなと思っています。

松浦:コロナ禍で、メンタル的にやられちゃっている周りのアーティストもたくさんいたし「啓泰は大丈夫かな……?」と心配もしていたのですが、めちゃめちゃ精力的に曲作りをしていたのでホッとしたのを覚えています。

高橋:今回は、トロ・イ・モアやクルアンビンのような、R&Bやソウル、アンビエントなどの要素を感じつつ、ベースにはロックミュージックがあるような音楽を聴きつつ曲作りをしていたので、その辺りの音楽に自分ではかなりインスパイアされていたつもりなんですけど、実際に出来上がったのはそれとはまた全然違ったテイストになっていましたね(笑)。



─確かに言われてみれば、ギターのエコー処理やベースのグルーヴ感などクルアンビンっぽさは感じますね。

高橋:「Wolves」とかはそうかも知れない。今、シーハーズのライブでサポートをしてくれているLUCKY TAPESのベーシストKeity(田口恵人)が、最初にレコーディングに参加してくれたのがこの曲で、彼のベースが入ったときに「こんなに曲の雰囲気が変わるんだ!」とびっくりしたのを覚えています。



─高橋さんが上げてきたトラックに対してお二人はどのようなアプローチをしたのですか?

松浦:僕自身は昨年リリースされたアーロ・パークスの『Collapsed In Sunbeams』や、ジョーダン・ラケイの『What We Call Life』みたいな、ジャズやソウルにオルタナティブをクロスオーバーさせたようなサウンドに触発され、そういう要素を取り入れたいと思っていました。Keityはブルースやソウルが大好きで、今回全曲レコーディングに参加してもらってて、今言ったような音楽やタイム感をリファレンスに、弾いてもらいました。それがめちゃハマったというか、シーハーズが持っているもともとの浮遊感にビートミュージックの強靭なグルーヴを混ぜられたので、自分でもかなり満足していますね。

─ということは、今回とまそんさんはベースは弾いていないんですね。

とまそん:僕はKeityみたいなベースは弾けないし、そういうベースが必要だったら弾ける人が弾けばいいなと思うんですよ。昔の自分だったら、そこにプライドやこだわりみたいなものもあったと思うんですけど、今はチームとしていい作品ができればそれでいいという考え方にシフトしました。今回ベースはKeityに任せて自分はシンセを弾いたり、ライブだったらマニュピレーターに回ったりしようと。

松浦:とまそんは、ライブではステージ中のエンジニアリングも手掛けているし、シンセも弾くし中国語も話せるし(笑)。次に中国でインタビューを受けるときは通訳なしで引き受けようかと思っているくらいなんですけど、そのくらい自分たちだけで賄えるような、DIY精神みたいなものは常に忘れないようにしたいと思っています。

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