米伝道師、ウクライナ侵攻はイエス・キリスト再臨の兆しと主張

キリスト教終末論の信者たち

はるか昔から、ゴグとマゴグという存在は、バビロニア帝国、ローマ帝国、バイキングといった歴史上の勢力に置き換えられてきた。この系譜にロシアが加わったのは冷戦時代のことである。当時のアメリカ人キリスト教徒の大半は、自国を「新たなイスラエル」になぞらえ、ソビエト連邦を「ゴグとマゴグ」(地理的にも「はるか北方」という聖書のことばと一致する)に、時の大統領ミハイル・ゴルバチョフをキリストの敵「アンチクライスト」とみなした(おまけにゴルバチョフの額には、「(黙示録の)野獣の刻印」があるではないか)。核戦争という黙示録さながらの脅威に加えて1948年に近代国家イスラエルが誕生したことは、預言が現実となり、世界の終わりがいよいよ近づいていることの証ととらえられた。

聖書の観点から考えると、こうした理論はまったくもって説得力に欠ける。「聖書の著者たちは、未来を占ったり、『ロシアがX国、Y国、あるいはZ国を攻めようとしている』や『プーチンという男が現れるだろう。兆しを解読せよ』といったメッセージ伝えようとしているわけではありません」と、『Unraptured: How End Times Theology Gets It Wrong(非・携挙——終末論の誤り)』の著者ザック・ハント氏は語る。「著者たちにとって重要なのは、『こういう敵がいるけれど、神が私たちを解放してくださる』という希望のメッセージです」

一部の人にとっては希望のメッセージである一方、ほかの人はそれを死と破壊のメッセージととらえた。キリスト教終末論の信者は、末世的な見方を通じて身の回りのことを見るだけでなく、災厄を生み出すアーティストのような存在だ。彼らは、気候変動、病、紛争といった人類の悲劇を、神の御心が行われたこと以外は何の意味ももたない出来事の連なりとしてのストーリーに書き換えてしまう。『「マタイによる福音書」24章をご覧ください』とローリー氏は動画の中で語る。「キリストは何と言ったでしょう? 『終末が近づくにつれて、戦争に関する噂が流れるだろう』と言いました。疫病も流行するでしょうし(まさに新型コロナがそうであるように)、キリストの再臨が近づくにつれてこうした大災害はますますエスカレートするでしょう。要するに、事態が悪化すればするほど、キリストの再臨が間近に迫っているのです」

ウクライナで起きている戦争は、恐怖以外のなにものでもない。それに加えて、ロシアの主導的な役割は——目下流行中の終末論的な預言とともに——2050年までにキリストが再臨することを信じる41%のアメリカ人(そのうちの23%が「確実に再臨する」、18%が「再臨する可能性が高い」と信じている)にとっては犬笛の合図のようなものだ。「彼らは、教会の教えに従って、ニュースからこうした兆しを見つけ出そうと神経を尖らせています」とハント氏は指摘する。「彼らは、そのための訓練を受けています。そのように教育されているのです。彼らは『あった! これが聖書の預言だ!』と言えるものを常に見つけようとしています。屈折した喜びのように聞こえますが、その世界で生きている人はゾクゾクするような興奮を感じるのです。キリストが現世に戻ってくるのですから」

Translated by Shoko Natori

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