『音楽はおくりもの』は、デビュー45周年を迎えた矢野顕子が、歴戦の猛者と素晴らしいグルーヴを奏でた傑作だ。本誌のインタビューでも「今回の4人になってから、バンドサウンドの心地良さに気付かされた」と語る、バンドメンバーの小原礼(Ba)、佐橋佳幸(Gt)、林立夫(Dr)に、改めて「矢野顕子の実像」を聞いた。ーー今回のアルバム『音楽はおくりもの』について矢野さんは「バンド」のサウンドにこだわったと語っていました。皆さんがバンドの一員としてこだわったポイントは何でしょうか?
小原 僕は自分がその曲になるということを一番大切にしています。単に楽器を演奏するだけでなく、印象的なフレーズを弾くだけでなく、自分が音楽になるっていうかな、よくわからなくてスミマセン。
佐橋 ここ数年ライブをご一緒させて頂く中で、既にこのメンバーならではのサウンド……というかムードみたいなものを共有できていると感じていたので、「ついに”それ”を思う存分表現できる機会がやってきた!」という喜びが溢れている作品だなぁと。「こだわり」という意味では、矢野さんも含めメンバー4人とも「こだわり」だけで生きてきた人ばかりなので、今回特別に気負ったところはなかったかと。
林 メンバーそれぞれが音楽を熟知している人ばかり。だから僕はただ皆んなの音を楽しんだ。そして、その中で自分が何をしたら作品がより楽しく、そして面白いものになるかにこだわった。
ーー矢野さんとの制作のやり取りで印象に残っていることがあれば教えてください。音楽に関連していることでも、関連していないことでも何でも構いません。小原 ちょっと前ですが、アッコちゃんから手紙がきてアッコちゃんの想いを伝えてくれたことがあって、僕も手紙で返事を書きました。何十年も前に僕がアメリカに行って音楽活動を始めた時によくエアメールで文通していた頃を思い出して嬉しかったでした。手書きの文章って素晴らしいよね。
佐橋 事前にしっかりとリモートで打ち合わせしてのぞんだレコーディングでしたが、作業中に誰かが突然思いついたアイデアは「何でも試してみよう!」という”おおらかさ”が、ほぼほぼ”功を奏した”レコーディングでした。「ここにペダル・スティール入れてみたら?」とか「ハンド・クラップ入れてみよう!」とか、矢野さんの作ってこられた楽曲のイメージを、自由に意見交換しながら膨らませていきました。すでにライブで演奏してきた曲たちも(ex.津軽海峡etc.)、繰り返し聴いて頂けるようなクオリティに昇華できるまで、あれこれ相談しながら作っていくのが楽しかったです。
林 僕は、もともとヘッドアレンジという手法の環境で育ち、これ迄たくさんのレコーディングに参加して来た。そういう意味では、このアルバム制作で最も印象に残っているのは、原点でもある当時のその体験にとても近い感覚を味わえたということです。
ーー本作の中で特に気に入っている曲を教えてください(その理由も)。小原 もちろん全曲に決まってるじゃないですか! No question !
佐橋 どの曲にもそれぞれ思い入れがあるので、難しい質問ですねー。アルバムタイトル曲の『音楽はおくりもの』は、完成形にたどり着くまでに”切磋琢磨”、難産だったこともあり、聴き返すたびにホッとした気持ちになります。ラストの「Nothing In Tow」で12弦ギターでのアプローチを思いついたのは、我ながら良いアイデアだったな、と。
林 これは答えられません。どの曲も気に入っているから。全曲ともメロディが素晴らしかったり、サウンドが面白かったり、歌詞にホッコリ郷愁感があったり、ジーンと来るものだったり…。とにかく全曲が金メダルなのです!