ポール・ウェラー2作連続全英1位 ザ・スタイル・カウンシルの精神とも通じる新境地

ポール・ウェラー(Photo by Sandra Vijandi)

ポール・ウェラーのニューアルバム『Fat Pop』が、前作『On Sunset』に続いてキャリア通算8枚目の全英1位を獲得。勢いが止まらない重鎮の最新作を、荒野政寿(「クロスビート」元編集長/シンコーミュージック書籍編集部)が全曲解説。

ポール・ウェラーにとって通算16作目のスタジオ録音アルバム『Fat Pop (Volume 1)』は、前作『On Sunset』が発売されてから10カ月ちょっとという異例のスピードでリリースされた。コロナ禍によって『On Sunset』のツアーを行えなくなったウェラーは、昨年3月の段階で、休むことなく次作に着手することを決断。ノエル・ギャラガーによってリークされた「『On Sunset』の2週間後にはニュー・アルバムができていた」という情報は誇張が過ぎるが、最後に録った「True」のレコーディングが昨年9月だから、前作が7月に出てから2カ月後には全曲を録り終えていたことになる。

本作の収録時間は40分以内で、2分~3分台のコンパクトな楽曲が多い。実現はしなかったが「最初は1曲ごとシングルとしてリリースし、最後に1枚のアルバムにまとめようかとも思った」そうで、プロデューサーのジャン・“スタン”・カイバートからも冗談半分に「このアルバムを『グレイテスト・ヒッツ』と呼ぶべきだ」と言われていたとか。シングル重視主義にウェラーが戻るのは、レスポンド・レーベルを運営していたザ・ジャム後期〜スタイル・カウンシル時代以来ではないだろうか。タイトルには「Volume 1」と付けられたが、移り気なウェラーのことなので、シリーズ化されるかどうかは何ともわからない(スタイル・カウンシルのベスト盤『The Singular Adventures of The Style Council, Greatest Hits Vol.1』も、結局続編が出ないままという前例がある)。

一見アナログ派に見えるウェラーだが、近年は音楽を楽しむのもスマホ中心。ネットラジオを毎日のようにチェックしているので、ニューカマーについても驚くほど詳しい。新作の曲のアイディアも、スマホの中にたっぷり貯めてあったデモや歌詞のメモが役に立ったという。そうした素材をもとに、ウェラーがヴォーカル、ピアノ、ギターなどを多重録音。ファイルをバンドのメンバーに送って各自がパートを加えていくという手法で、手探りながらもレコーディングをスタートした。

そしてロックダウンが緩和された昨夏、ウェラーが所有しているサリー州のスタジオにメンバーが集結。曲の仕上げと新曲の録音を集中的に行い、アルバムを完成させた。xsnoise.comのインタビューでウェラーは、久々にスタジオに集まった日のことについて「あれは特別なことだった。まるで学校に戻ったような気分だったよ」「全員が再び同じ部屋に戻ってきて、ちょっと会話しながら演奏できる……その日がとても恋しかった」と、喜びを噛み締めるように語っている。



本作は1曲入魂、シングル集的な趣がある一方で、曲ごとにスタイルが異なり、過去最高に多様性に富んだアルバムになった。何よりファンを驚愕させたのは、いち早く公開された「Cosmic Fringes」だろう。派手にシンセが鳴り響く、ミニマルなビートに乗った曲だが、もともとこういうエレポップ的なアレンジにするつもりはなく、「最初のデモではかなりパンク風、ちょっとストゥージズみたいだった」という。どうやらウェラーはイギー・ポップの作品を聴き直していたようで、他の曲にもその痕跡が窺える(後述)。

「その時はドラムとベースだけにしようかと思っていたんだ。シンセを乗っけることで、メカニカルな感じになったと思う。少しグラム・ロックっぽさもあるね」

歌詞は「ネット上で不満をぶちまけるだけのカウチポテト族のような役立たず」を思い描き、架空のキャラクターを主人公にして書いたというが、その語り口はなかなか辛辣だ。

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