ポール・ウェラー2作連続全英1位 ザ・スタイル・カウンシルの精神とも通じる新境地

BLMに対するポール・ウェラーの回答

2曲目の「True」では、ウェラーが気に入っているリヴァプールの若手バンド、ザ・ミステリンズからシンガーのリア・メトカーフをデュエット相手に選んだ。ウェラーは彼女と二人で歌える曲を想定してこのロックンロールを書き下ろしたそうで、甘ったるい男女デュエットの対極にある、火花散るようなコラボを見せている。

メトカーフは2019年にウェラーのスタジオで行なわれた「ブラック・バーン・セッション」に参加、「Walk On Gilded Splinters」を堂々と歌っており、ウェラーが気に入るのも納得のド硬派ロッカーぶりが頼もしかった。彼女はあの時点でまだ18~19歳ぐらいだったはずだ。



タイトル曲「Fat Pop」で驚いたのは、ウェラーの「レコーディング中、サイプレス・ヒルのことを考えていた。DJマグスのプロダクションみたいなサウンドさ」という発言。そもそも90年代の米西海岸ヒップホップに言及すること自体がそう多くないウェラーなので、これにはのけぞってしまった。言われてみると確かに、曲のテンポや雰囲気、アコースティック・ギターの入れ方など、マグスが作るトラックを彷彿させるところがある。ウェラーの演奏をカイバートがサンプリングして組み直した結果こういうサウンドになったそうで、「この曲は新作で一番のお気に入り」と、ウェラーはあちこちで発言している。



本作で最も英国臭が強い、キンクスに通じるポップ・ソング「Shades Of Blue」は、娘のリア・ウェラーとの共作。先にヴァースの部分はできていたがコーラスが思いつかず、リアに相談したところこのメロディが出てきたそうだ。息の合ったバック・ヴォーカルもリアによるもの。彼女はデビュー・アルバムを制作中とのことで、本作にも参加している常連、オーシャン・カラー・シーンのスティーヴ・クラドックがプロデュースを担当しているそうだ。



「Glad Times」は『On Sunset』への収録候補だった曲で、さんざん迷ったが色が違うと感じて外していた。ストリングス入りで、前作と近いメロウネスが漂うニュー・ソウル調の佳曲。以前『True Meanings』でも共演したエレクトリック・ミュージックのトム・ドイルとアント・ブラウンがバッキング・トラックを作り、およそ2年かかってようやく完成に至ったそうだが、ウェラーに“ソウル・サイド”を求めるファンには喜ばれる曲だろう。



ウェラーは『True Meanings』をリリースしてからアコースティック・ギターを使う頻度を敢えて落としていたそうだが、「Cobweb / Connections」はストリングス入りのフォーキー・チューンで、すっかり常連になったハンナ・ピールに弦のアレンジを委ねた。「自分自身を大切にすることが、人々の幸せにもつながる」と歌う内省的な歌詞は、自問自答の過程をさらけ出しているようにも見える。



「Testify」ではウェラーのアイドルのひとり、元エーメン・コーナーのシンガーであるアンディ・フェアウェザー・ロウとのデュエットを披露。地道に続けている「レジェンドとの共演」シリーズをまたひとつ実現した。ジャッコ・ピークのフルートが冴え渡るファンクで、ゆったりしたグルーヴが二人のヴォーカルと絶妙にマッチしている。なお、日本盤にはボーナス・トラックとして、この曲のライヴ・ヴァージョンが収録された。子供の頃に「トップ・オブ・ザ・ポップス」でエーメン・コーナーを観ていたというウェラーは、ライヴでアンディと共に彼らの代表曲「(If Paradise Is) Half As Nice」を演奏したこともある。



ファンキーな曲が続く。「That Pleasure」はかなり直接的なメッセージ・ソングで、「ブラック・ライヴズ・マターをめぐるムーヴメントに対する僕なりの回答なんだと思う」と認めている。

「曲にするのはデリケートな問題でもあるが、自身の肌の色に関係なく、人間なら誰もがなんらかの感情に気持ちが乱されて当然だ。ジョージ・フロイドが白昼堂々殺されるあの映像に、人は恐怖、嫌悪、ショックを感じるべきだ。あんなことはもう起きてはならない。人間全員が問われているんだ」

しばらく社会的なテーマから距離を置いているように見えていたウェラーだが、ここでは「人は皆、生まれながらにして自由」と感情を露わにして歌い、今こそ抗議に参加して社会を変えるべき時なのだと明言している。スタイル・カウンシルの頃とは政治観がいくらか変わったようだが、怒れるウェラーの魂は不変だ。アレンジには、同じく社会的なテーマを取り上げたカーティス・メイフィールドの楽曲と重なる印象もある。


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