サマンサ不在の『SATC』リブート版を、真の続編と呼べない理由

しかしながら、サマンサ不在のリブート版SATCは本当の意味でのSATCではない。それは金目当てのコピーであり、いまだに根強い人気を誇るオリジナルシリーズの要素を切り取った、つまらないスクリーンショットに過ぎないのだ。SATC通の批評家たちも知ってのとおり、SATCのテーマはセックスでもなければ大都市ニューヨークでもない。高級な靴、ミスター・ビッグ役のクリス・ノーツの割れあご、とりあえずウエストの高い位置にベルトを巻くファッションでもないことは言うまでもないだろう。SATCは女同士の友情の強さを描いた作品なのだ。女友達のグループの中心的存在がひとり欠けているという事実は、女同士の友情という概念そのものに対する裏切り行為に等しい。

もし、パラレルワールドでキャトラル以外の女優がサマンサを演じていたら、サマンサというキャラクターは風刺の域を出なかっただろう。彼女は笑えるくらいセックスが大好きで、その度合いは熟女ものポルノくらいでしか見かけないほど強烈なのだ。セックスシンボルと目された女優メイ・ウェストばりの気の利いた性癖に関する名言は有名で(「ダーティ・マティーニはあんたよ!」と浮気した恋人の顔にマティーニを引っ掛けるシーンなど)、シラフでよくそこまでといえるくらい自信満々のサマンサは、同性愛恐怖症の人がイメージする40代のドラァグクイーンのような存在だ。実際、多くの人がサマンサを“女装したゲイ男性”と的確に表現してきたが、この表現はキャトラル本人による人物描写よりも同性愛者の男性のセクシュアリティについて多くを語っている。

サマンサというキャラクターの漫画のような側面と、遡及的に批判されてきたいくつかの不適切な過ち(サマンサが有色人種の男性とデートした際に相手のことを「大きくて黒いあそこ」と言ったエピソードを参照)にも関わらず、サマンサには優れた点が数え切れないほどある。彼女は自身のライフスタイルを平然と貫き、人を批判しがちなヘルスケア関係者や高慢な主婦たちをはねつけ続けた。乳がんとの闘いを描いたファイナルシーズンでサマンサは、乳がんのチャリティーキャンペーンのために集まった人々の前でストレートなスピーチをし、最後には聴衆とともに誇らしい気持ちで被っていたウィッグを宙に放り投げる。このエピソードから、逆境に対するサマンサの強さが伝わってくる。だが、それ以上にサマンサは3人の女友達に対して驚くほど思いやり深く、ちょっとしたトラブルが起きればいつでも彼女たちの肩を持つのだ。ベビーシャワーのシーンでは、シャーロットが将来子どもにつけると高校時代から公言していたのと同じ名前を生まれてくる子どもにつけるつもりだと友人の妊婦から聞かされて怒ったとき、サマンサは悪びれずその友人を「ビッチ」と罵り、シャーロットをパーティから退席させる。ろくでなしの元カレ(既婚者のミスター・ビッグ)と不倫していると繊細なキャリーに打ち明けられたとき、「誰に言ってるのよ」とクールに応じるサマンサは実に堂々としていた。批評家はSATCの4人が病的なまでに浅はかで自己中心的だと批判してきたが、少なくともサマンサは違う。4人の中でもっとも快楽主義的で悪徳に魅せられているにも関わらず、サマンサはもっとも筋の通った人物であることは間違いないのだから。

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SATCシリーズを通してキャトラルの演技がいかに重要であるかは、どれだけ強調してもし過ぎることはない。下手な女優がサマンサを演じれば、サイモンとガーファンクルの「ミセス・ロビンソン」にアニメ『ロジャー・ラビット』に出てくるセクシー美女ジェシカとドラァグクイーンのルポールを少々加えたような、肉食系クーガー女程度のキャラクターで終わってしまうだろう。「ミスター・ビッグとデートしてるの? 私の相手はミスター・トゥー・ビッグよ!」のような下ネタめいたセリフが印象的なキャトラルの演技がパロディの域を出ない一方(以前クリスティーナ・アギレラは人気深夜番組『サタデー・ナイト・ライブ』で完璧なモノマネを披露した)、彼女は脚本家から与えられたよりもはるかに優れた繊細さを常に加えながらサマンサを演じてきた。サマンサのいかつい外見と唯一肩を並べられるホテル王リチャード(演:ジェームズ・レマー)に裏切られるエピソードは、まさにその好例だ。恋人の浮気現場を押さえたサマンサは、怒りに駆られてハートの絵を額ごと叩き割って「これであなたのハートも粉々ね」と泣き出すのだ。下手な役者の手にかかっていれば、このシーンは爆笑ものだっただろう。だがキャトラルの演技は見事なまでに心がこもっていて、彼女に同情せずにはいられないのだ。

Translated by Shoko Natori

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