浅川マキ没後10年 魂の歌に寄り添い続けたプロデューサーの告白

浅川マキのCD(1st Album 裏ジャケ)を手にした田家秀樹(左)、寺本幸司(右)



生前最後のライブで歌った曲

田家:浅川マキさんが唯一遺された小説集『幻の男たち』のプロデューサーの章では、寺本さんがマキさんに言われたんだろうなというセリフがいくつか書かれておりまして。池袋の文芸坐で始める時に、寺本さんはですね、マキさんに「マキ、歌おう。あぶれた人たちのために」、「階級闘争は半端じゃできない。町の歌手として歌っていこう」とおっしゃったそうですね(笑)。

寺本:そういうセリフを言ったのか厳密な記憶はありませんけれど、そんなこと言ったんでしょうね(笑)。

田家:でも、あぶれた人のために歌おうというのはあったのでしょう。

寺本:そうですね。アウトローみたいな精神は根源的に持っていないと、この時代に向き合えないよっていう気持ちは持っていましたし。マキにもそういう気持ちを共有してもらいたいというのは間違い無くありましたね。

田家:それがオールナイトに繋がったり、西部講堂に繋がったりと。

・浅川マキ「さかみち」


田家:寺本さんが選ばれた6曲目「さかみち」です。1972年のアルバム『MAKI LIVE』の曲で作詞・作曲は彼女ですね。そして、浅川マキさんは2010年の1月17日、名古屋のジャズクラブ「jazz inn LOVELY」でお客さんを待たせたまま、ホテル東急インで亡くなってしまう。前日のライブの最後に歌ったのがこの曲だった。生前最後がこの曲でした。

寺本:今回選曲を頼まれた時に、物凄僕はい数の曲が僕の頭の中に浮かぶんですが。どうしてもこの曲が最後にかけていただきたいなと言った理由があるわけです、1月15日、16日、17日の3日間のうち、僕は16日に行ったんですね。満員で。「jazz inn LOVELY」って割とご飯も美味しいんで、食べたり飲んだりする中で浅川マキを聴くというね、それがステータスみたいな場所なので。マキも言っていたけど、「あそこ神経使うのよね」と。「お客さんがそれなりの方が来てるから」と前々から言っていましたから。それもあったとは思うんだけど、出てきた時に、ピーンと糸を張ったような緊張感があったんですよ。いつもはピアノ伝いに出てきて、「よく来たわね」なんて言って始めるんだけど、その時はいきなり歌い始めた。でも、客を置いてけぼりにするんじゃ無くて、客と向かい合っていながら浅川マキという歌い手はどんな歌い手なんだろう。それは、きっとこんな歌い手なんじゃないかと自分で確かめているというか、自分を全て曝け出すような感じがあって。何度も聞いてきた曲なのに、1曲1曲が今まで聴いた中で三本指に入るくらいだった。キーも昔のキーで歌うし、ビビっとくるんですよ。それで1部が終わって、お客さんも何も飲まずに聴き入っていて。

田家:そんな余裕も持たせないくらいの緊張感だった。

寺本:そう、みんな終わってやっと食べ始めた(笑)。それで休憩があって、2部が始まって。2部でもそのトーンは変わらずに客と向かい合うというより、自分と向かい合うようなステージなんです。寺山修司が言っていたのが「アーティストが簡単にアンコールをやるのが許せない」と、「浅川さん、僕はアンコールやらないからね」と。浅川マキ自身もあんまりアンコールをやらないタイプなんですよ。でも、その晩は3曲やったんですよ。それで、最後にこの曲をやった。その明くる日、マキが死んだっていう話を訊いた。その時に最初に僕の中に浮かび上がってきたのが、この「さかみち」っていう歌なんです。麻布十番の坂があって、真夜中でもいつもそこは車が通ってるんですよ。雨の晩なんか、きっとこうだったろうっていう浅川マキの心境ソングとして名曲だと思います。それを最後に歌ったというのが僕にとってとっても意味があるので、今回選ばさせていただきました。

田家:知らせはどこでお聞きになったんですか?

寺本:それがですね、明くる日大須観音にいて、肉味噌うどん食べて帰ってきて。私の妻が沢知恵という歌い手でありまして、浅川マキと一緒の時期にデビューしていて親交が深かったんですね。彼女と一緒に、私の娘がまた下北沢のジャズバーでアルバイトをしていたので、娘に会うためにジャズバーに行ったんです。そしたら、マスターが気を使って浅川マキの曲を流さなきゃダメじゃないって。それで夜10時くらいかな、今、浅川マキのマネジメントをしている方から突然電話がかかってきて、こっちが何か言いかけたんだけど、すぐに「マキが死んだのよ」と。人生で頭が真っ白になるという表現がハマるタイミングが僕はあそこしかない。声も出なくなっちゃって。一旦電話を切って、呼吸を整えてから電話をかけなおしたんです。5時に会場に入って6時に全部スタンバイするというのが彼女の必ずの日常なんですね。音合わせんなんて1回くらいでいいんですけど、お客さんが入ってくる椅子の位置とか照明のチェックはしっかりやる。そのマキが5時になっても入ってこない。それで東急インの、角部屋が好きという彼女が気に入ってる部屋に行くと、鍵がかかってる。鍵を開けるとチェーンがかかってる。下に行ってチェーンを切って中に入ると、風呂場で倒れていたんですね。心臓まひみたいになって、風呂に顔を突っ込んで一種の溺死みたいな感じだったらしいです。そういう状態で病院に運ばれるんですけれど、まだ体が温かかった。客は満員でマキが死んだことは知らないんですね。病院に運ばれたことだけ分かると。それで、死亡を確認できたのが8時半ごろだったんですけど、僕は、それを訊いて色々と手配をしてテキパキと指示をしたわけです。一番大事なことは新聞関係で、それもやって。電話を切ったら、カウンターの向こうから娘が「パパ、なんだか生き生きして電話してたけど」って言うんですよ。こんな時に生き生きってなんだよって一瞬考えましたよ。僕のところには、浅川マキから電話がいっぱいかかってきたんです。でも、普段、彼女に電話する人なんてほとんどいない訳ですよ。1週間も10日間もお風呂で倒れていたら、見つからないですよね。そうすると見つかった翌日の新聞は、「老女歌手、孤独死」ですよね。でも、結局次の日の新聞は「浅川マキ、満員のお客さんを待たせて逝去する」と言うニュースになりましたし。だから田家さんね、お互いに年になっていますけど、人間、生まれた時の意識はありませんけど、死ぬ時も意識を持ったまま死ぬこともないわけですよね。あの時は、「浅川マキに最後までやられたわ。ほんとに見事な死に方だ」って娘に言いました。

田家:なるほど…… お聴きいただいたのは、浅川マキさんが生前最後に歌われた曲「さかみち」でした。『J-POP LEGEND FORUM』寺本幸司Part1、日本の音楽プロデューサーの草分け寺本幸司を特集する一カ月。今週は浅川マキさんのお話を色々と伺いました。流れているのは、この番組の後テーマ竹内まりやさんの「静かな伝説(レジェンド)」です。なくなって10年が経ちました。イギリスでコンピレーションを出さないか、という話しも来てますからね。海外からのマキさんへの思いがけない反応、それがいろんな形で寺本さんの所に届いてらっしゃる。

寺本:やっぱりマキは僕の中で生きている実感がありますね。だから、こうして生の話をしたくなるんじゃないでしょうか。

田家:今金沢では、町をあげての追悼の展示写真会も行われている訳ですが、2月の15日にはライブもおありになる。

寺本:はい。金沢の北国新聞赤羽ホールで「浅川マキ没後10年メモリアルコンサート」と言うのがあります。やはり金沢の方で始まらないといけないと思っていますので。

田家:加藤登紀子さんやカルメン・マキさん出演。大阪や東京では開催されるのでしょうか?

寺本:そういう話も出てきてはいますね。とりあえず僕は2月15日を成功に持ってくると言うのが頭にいっぱいなので。その後、東京とか京都とかでやっていきたいと思います。

田家:改めて、寺本さんにとっても、日本の音楽シーンにとってもマキさんの存在感、マキさんのいた意味を伺ってもよろしいでしょうか?

寺本:そうですね。意味はたくさんあると思います。それはね、若い人たちが浅川マキの歌を歌っているのを見ると、浅川マキをカバーするんじゃなくて、浅川マキの世界を愛し、感じ自分の歌として歌ってくれている。それが彼女が歌手として存在した一番の理由じゃないでしょうか。

田家:若い人だから感じることも色々あるでしょうし。来週はりりィの話をしていただきます。


<INFORMATION>

寺本幸司
音楽プロデューサー等。浅川マキを皮切りに、りりィ、桑名正博、下田逸郎など、個性的なアーティストを多く手がける。

田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソナリティとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp

「J-POP LEGEND FORUM」
月 21:00-22:00
音楽評論家・田家秀樹が日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出す1時間。
https://cocolo.jp/service/homepage/index/1210
OFFICIAL WEBSITE : https://cocolo.jp/
OFFICIAL Twitter :@fmcocolo765
OFFICIAL Facebook : @FMCOCOLO
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