T・レックスとは何だったのか? マーク・ボランが生み出した永遠不滅の魔法に迫る

今も息衝くT・レックスの魂

T・レックスの作品で最も有名なのがアルバム『電気の武者』と言える。この作品には、宇宙での大騒ぎの「プラネット・クイーン」、吸血鬼のセックス「ジープスター」、キューブリック的ドゥーワップの「モノリス」等が収録されており、「モノリス」でボランは映画『2001年宇宙の旅』と楽曲「Duke of Earl」を融合させた。この作品の1年後にリリースされたのが『ザ・スライダー』で、過小評価されている「ミスティック・レディ」が収録された作品だ。この曲は時代を先取りしすぎたシスターズ・オブ・ザ・ムーンのバラッドだ(訳註:「Sisters of the Moon」はフリートウッド・マックの曲で、この歌詞でスティーヴィー・ニックスはステージでの自分のペルソナを「sister of the moon」と表している)。また「ベイビー・ブーメラン」はパティ・スミスについて歌った最初の曲だ(女性嫌悪や男っぽさを一切匂わさずに女性を扱った曲を量産するボランの才能は、70年代の他のロッカーとは一線を画すものだったと、ここでは言っておこう)。

ボランはイギリスでの驚異的な人気に驚くことは一度もなかったようだ。「特定のコードには魔法の霧が存在するね。Cメジャーコードを聞くと、俺の頭の中で25のメロディとシンフォニーが聞こえてくる。その中から一つを引っ張り出すだけだ。重圧なんて一切ないし、とにかく溢れ出てくるんだ」と、リンゴ・スターが監督したロック・ドキュメンタリー『マーク・ボラン&T・レックス/BORN TO BOOGIE』でボランは自慢気に話していた。また、彼は自作の詩を集めた作品集『Warlock of Love』を出版してもいる。



悲しいことに、彼の栄光が終わりを告げるときは、あっという間にやってきた。人生のほとんどで飲酒しなかったボランも、『ザ・スライダー』後にアルコールとコカインのかすみの中に迷い込んでしまった。実は1973年に『タンクス』をリリースした頃にはもう音楽的にガソリン切れになっていたのだが、『地下世界のダンディ』、『銀河系よりの使者』、ボウイの『ジギー・スターダスト』への悲劇的なアンサー・アルバム『ズィンク・アロイと朝焼けの仮面ライダー』を立て続けに投下していった。そして、彼は人生の最後の年に、それまでのことをすべて整理して、60年代にR&Bシンガーだったアメリカ人の恋人グロリア・ジョーンズとともに、二人の間に生まれた息子ローラン・ボランを育てていた。さらに子供番組「Marc」のホストを務め、最終話ではボウイと和解した。2人はボランがステージから転落するまでの1分間、ジャム・セッションを行ったのである。

それから2週間後、ボランは交通事故で死亡してしまった。ボウイ、ヴィスコンティ、ロッド・スチュワートが彼の葬儀に出席した。ボウイはこう語った。「恐ろしいほど心がズタズタに引き裂かれている。彼に贈る唯一の言葉は、彼がこの世界で最も偉大な“小さな巨人”だった、だ」と。しかし、ボランのファンには、彼が自ら進んで爆弾の中に身を投じたと言う者もいる。あれから何十年を経た現在もT・レックスのスピリットが息衝いている理由はこれだ。火星のボールルームからロックの殿堂へと途切れることなく。



Translated by Miki Nakayama

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