T・レックスとは何だったのか? マーク・ボランが生み出した永遠不滅の魔法に迫る

T・レックスの誕生、デヴィッド・ボウイとの因縁

ボランの神話の一つが、これまで出現したどのロックスターよりも彼の虚栄心が突出して強かったというものだ。実際「俺はいつだって上手く切り抜けてきたよ」と、1971年のレコード・ミラー紙で自慢気に語っている。「つまり、俺が俺自身の幻想ってこと。俺こそが『コズミック・ダンサー』で、子宮から飛び出して『電気の武者』の墓場に向かって踊りながら進んでいるってわけ。テレビに出演して600万人の視聴者の前でグルーヴすることなんて恐れちゃいない。ビビっちゃったらクールじゃないからね。外でも家でも同じだし、別に大したことでもない。俺は音楽には真剣だけど、自分の幻想なんて真面目に捉えていないよ」と。



ハックニーのトラック運転手の息子として1947年に生まれたマーク・フェルドは、ロンドン・シーンの流行の最先端を牽引しながら育った。若くて貧乏な目立ちたがり屋だった彼はショービズの世界に入るために必死で、ある日、彼のマネージャーの事務所のペンキ塗りにもう一人の青年と一緒に雇われた。マークは「キング・モッド」と自己紹介し、「あんたの靴はサイテーだな」と言い放った。実は、このとき一緒に雇われた青年こそがデヴィッド・ボウイだった。ここから先何年間も、ライバルとして2人は互いを苦しめることになる。1969年2月、イギリス・チャートを賑わしたボランは、ボウイをツアーに招待した――パントマイムをさせるために。のちにトニー・ヴィスコンティは「マークは当時、まだ音楽キャリアが軌道に乗っていなかったデヴィッドに対して、非常に冷酷な態度を取っていた。だから、デヴィッドをミュージシャンとしてではなく、ティラノザウルス・レックスの前座のパントマイマーとして雇ったことは、マークにとってサディスティックな喜びだったと思う」と語っている(このとき、ボウイに投げつけられたブーイングに、ボランはさらに大喜びしたことだろう)。

ボランは1965年にデビュー・シングル「The Wizard」をリリースした。これは自分の魔法の力への賛辞を歌った曲で、誰も見向きもしなかった。しかし、この青年は有言実行するタイプだった。彼はロンドン中の新聞に、自身の神のような存在である重荷について大喜びで話したのである。「個人的には必ず死ぬという未来に感動はない。でも4年間、唯物論的アイドルになる未来には魅力を感じる。俺は人生を味わいたい。ケーリー・グラントみたいな白髪が欲しい」と、イブニング・スタンダード紙のモーリーン・クリーヴにボランが話している。このとき、ボランは18歳になったばかりだった。

ジョンズ・チルドレンという前衛的なバンドを組んで一瞬活動したあと、ボランはヒッピーのフォーク・デュオ、ティラノザウルス・レックスを結成した。このグループでは、ボンゴ担当のスティーヴ・トゥックと共にアコースティック・ギターを弾きながら、指輪物語の著者トルーキンに触発された物語をさえずる声で歌った。1968年にデビュー作『ティラノザウルス・レックス登場!!』をリリース。イギリスのメディアはボランを「ボップするエルフ」と呼んだ。そしてスティーヴ・トゥックをミッキー・フィンに代えて作ったのが傑作アルバム『A Beard of Stars』だった。しかし、ターニングポイントとなったのはT・レックスへ改名後のスマッシュヒット曲「Ride a White Swan」で、エレクトリック・ギターに持ち替えたことだった。彼はレスポールをアンプにつなぎ、魔法使い、ドルイド、黒猫を讃える歌を歌ったのである。プロデューサーのトニー・ヴィスコンティはリヴァーブを大幅に増量して、ストリングスを加えた。その後、ボランは「ホット・ラヴ」、「イージー・アクション(Solid Gold Easy Action)」、「チルドレン・オブ・ザ・リヴォルーション」、「ゲット・イット・オン」、「20センチュリー・ボーイ」といったヒット曲を次々と発表していく。



ヴィスコンティとボランは無敵のアーティスト・プロデューサー・コンビとなり、時を同じくしてヴィスコンティがボウイの初期の楽曲も多数プロデュースしていたことが、ボランの競争心にさらに油を注ぐこととなった。彼はことあるごとに、勝手にグラム界の敵とみなすボウイの悪口を言って回っていたのである。1973年にはクリーム誌のキャメロン・クロウに「デヴィッドなんて俺の足元にも及ばないと思っているぜ」と語った。「ヤツには俺に匹敵するような才能はないってだけ。俺にはある。昔も今もな。ロッド・スチュワートにもヤツなりの才能がある。エルトン・ジョンにもあるし、ミック・ジャガーにもある。マイケル・ジャクソンだってあるよ。でもデヴィッド・ボウイにはない。残念だがな」と。

Translated by Miki Nakayama

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