1.「Move Together」(lead vocal: Billy F. Gibbons)
サングラスと長い顎髭でおなじみ、ZZトップのビリー・F・ギボンズが書いた曲で、アルバムは幕を開ける。シンプルなエレクトロニック・サウンドをバックに、ファルセットで歌われる最初のパートは、いつもの渋いビリーらしさがまったく感じられない意表を突く出だし。もっともZZトップは、80年代にシンセサイザーを導入したサウンドでメガ・ヒットを飛ばしたりもしているので、そういう柔軟性を見せたということか。中盤以降は、ステラ・モズガワ(ウォーペイント)とカーラ・アザール(オートラックス/ジャック・ホワイト・バンド他)という、現オルタナ・シーン最強クラスのツイン・ドラムが炸裂し、大きな展開を見せていく。今回のセッションが余興レベルにとどまらない成果をもたらしたことがすぐにわかる、いきなりクライマックスなオープニング・ナンバーだ。
2.「Noses in Roses, Forever」 (lead vocal: Joshua Homme)
過去に行なわれてきたデザート・セッションズの中でも、ひときわ多彩なミュージシャンたちが集められた今回の『Vols.11&12』において、「影の功労者」的な立ち位置からジョシュを的確にサポートした気配を感じさせるのが、シャヴェズ(Chavez)のマット・スウィーニーだろう。かつてはズワンに参加したこともあり、ジョシュが深く関わったイギー・ポップのアルバム『Post Pop Depression』をフォローするツアーでもサポート・メンバーを務めていたマットは、全6曲に参加。5曲でソングライティングにもクレジットされており、名サイドマンぶりを発揮している。まんまQOTSAのアルバムに入っていてもおかしくなさそうな2曲目では、マットはステレオの右側で鳴るギターと最初のリード・パート、一方のジョシュは左側のギターと2番目のリード、そしてビリーは3番目の……などと面白くクレジットされているので、その辺りも注意して聴いてみたい。
3.「Far East For the Trees」
今回の参加ミュージシャン中、とりわけ意外な登用という印象を受けたのは、プライマスの怪人ベーシスト=レス・クレイプールかもしれない。レスは、自らの農園で作られたワインを山ほどランチョ・デ・ラ・ルナまで持参したそうで、本作のアーティスト写真でも、ワイングラスを持った姿で写っていたりする。本家プライマスでは、ベキベキブイブイした異様なベースを弾き倒しているが、これこそセッションの妙ということなのか、パッと聴きは抑え目なプレイなのが逆に面白い。このインストゥルメンタル・ナンバーでも、全体のメキシカンな乾いた風味を乱すことなく、要所でクセのあるフレーズを添えている。
4.「If You Run」(lead vocal: Libby Grace)
リビー・グレイス・ハックフォードなる女性シンガーがリード・ヴォーカルを担当するナンバー。資料では、ニューカマーと紹介されているリビーについては、ジョシュの古い友人らしいということ以外、詳細はよくわかっていない。この曲は彼女が書いたカントリー・ナンバーに手を加えたもののようだ。リビーの歌はとてもいいので、今後ジョシュの後ろ盾で本格的に表舞台に出てくるのではないだろうか。引き続き注目しておきたい。なお、この曲に関して、国内盤CDのライナーノーツでは、マタドールの用意した資料に則って「ジョシュは演奏には参加していない模様」と書いてしまったが、どうやらちゃんと参加していて、ギターやらシンセやらたくさんプレイしているようなので、この場を借りて訂正します。