韻シストBASI&TAKUが語る、『SHINE』制作秘話と現代への視点

「フレッシュ重視なものが流行ってきて市民権を得た今やからこそ、じっくりと作りこまれたラップっていうものに注力した」(TAKU)

―そこから、次の“Come Around”からレイドバックしたムードになって、最後の“Get out my head”まで、アッパーな曲がない。そこはマネージャーさん含む6人が選んだ曲ということで、意図的ではないんですよね?

TAKU:そこは選んだ曲がこうやったってだけですね。

―リズムも“Come Around”以外は跳ねないですし、しかし、のっぺりした印象はなくて、すごくグルーヴしてます。

BASI:ビート選びに関しては、最後はノリみたいなところはあったんですけど、それとは真逆で、リズムに対してのメロディや言葉の乗り方は、めちゃくちゃ精密にやりました。この一音、一句、一文字は拍の表なのか裏なのか、何拍目なのかとか、このコーラスはこのままいったらどこに当たるのかとか。全曲に対して時間の使い方は相当細かくやりました。どうやったらもっと抜けがよくなるか。そこにこだわったことは鍵になってますね。

TAKU:ライムの被る場所が一拍前やったらどうかとかね。そこが「アダルト・オリエンテッド・ラップ」と言ったことにも繋がってるんです。ラップって、フリースタイルとかもそうですけど、フレッシュ重視なものが流行ってきて市民権を得た今やからこそ、じっくりと作りこまれたラップっていうものに注力したというか。

―そして異色の存在が“よあけの歌”。オーセンティックなソウルに接近した、もっとも背景がはっきりしていて時代感が古い曲。そこにオートチューンのヴォーカルのマッチングがすごく印象的でした。

TAKU:いろんなヒップホップクルーがいると思うんですけど、韻シストの大きな特徴のひとつは、Carol KingやStevie Wonder、The Beatlesだと“Hey Jude”や“Let It Be”みたいな、音楽の教科書に載りそうな、コードとメロディと歌詞が「普通にすごくいいもの」を、ヒップホップバンドが作れる力があるってこと。ヒップホップMCが作詞家として詞を書いて、トラックメイクというよりは「曲」をバンド隊が作れる。物事を斜めから斬って人と違うことをするのではなく、カヴァーしやすい、歌いやすい、そういうスタンダードになるような曲をヒップホップアーティストが目指すのって、ありそうでなさそうだなって。

―この曲、歌もTAKUさんが歌われてるんですよね?

TAKU:最初はサッコンが歌ってたんですけど、ほかでラップしてる曲の世界観と、ちょっと離れすぎてるとか、いろいろあって僕が歌ったんです。で、そうなると、タイプ的にこういうスタンダードな魅力のある曲を、ハイファイなピアノと生感のあるドラムとともに表情を付けて歌う、シンガーってタイプでもないんで、クラップとか808の音とかを入れて、声にはオートチューンをかけてみたら馴染むんじゃないかと思って。結果、ルーツを感じる曲やのに、エフェクティヴなものがうまく溶け合ってて、いい感じになったと思います。

「あらゆるやり方にオープンなバンドでありたい」(TAKU)

―そういう生演奏やバンドのサウンドと、エレクトロニック、テクノロジーに、今や境界線はない時代。ただ、韻シストはまぎれもないバンドなわけで、そうであることの価値って何でしょう? それこそ結成当初の、ヒップホップバンドってほとんどいなかった頃とは、周囲の見方も変わってくると思うんですけど。

TAKU:「バンドだからこそ」とか、ほとんど考えたことがないですけど、ライヴにおいてはバンドは強いとは思います。レンジもぜんぜん違いますし。そこで、ライヴ用の生演奏ミュージシャンを揃えてっていうやり方もありますけど、パーマネントにやってるからこその呼吸があるんです。でも、生演奏至上主義で、オケは認めないとか、そういう考えは絶対に持ちたくないですね。そうなったら僕らが進化していける可能性は消えてしまう。これから、パソコンだけでとか、サンプラーを駆使してとか、そういうスタイルでライヴをする人たちは、どんどん増えてくると思うんです。そんなあらゆるやり方にオープンなバンドでありたいです。

―価値観が多様化するなかで、不毛だとわかっていながら、隣の芝生が青く見えたり、自己都合で他者の存在を否定したくなることって、人には少なからずあると思うんですけど、そういう感情が湧いてしまうことはないんですか?

BASI:ナチュラルに入ってくるものに感じることはありますけど、そういう気持ちは一切ないですね。なぜこれがウケて僕らがウケないのかとか、人と違うことがしたいとは思ってますけど、他と比べて優劣を決めることには興味がないんです。それは最初から。

TAKU:歯を食いしばってカウンターを打つようなタイプでもないし、流行り云々の前に、人と同じことはしたくないっていうのは、たぶんメンバーみんなが思ってて。本当は、もっと外部で起こっていることに敏感なほうがいいのかもしれないですけど、自分たちの畑を耕しててもいっこうに実らないからって、雨を追い掛けたところで追いつきませんしね。僕らがそこに着く頃にはもう止んでる。そんなんやったら、自分とこの畑をひたすら耕して、雨がくるのを持ってるほうが、結果的に降らんかもしれんけど、よっぽといいじゃないですか。

BASI:たとえばトラップに雨降ってたらなんでそこだけって思ったり、ブーンバップに降ったらあっち行ってみようと思ったり、最近の若い奴らはとか、そんなこと言うてる暇なんてないですから。僕らは僕らのやりたいことをやるだけですね。



Edited by Aiko Iijima

<INFORMATION>


『SHINE』
韻シスト
発売中

韻シスト TOUR 2019“ SHINE旅行”
9/13(金) 愛媛 松山 SALONKITTY
9/14(土) 香川 高松 黒船屋
9/22(日) 東京 町田 CLASSIX
9/23(祝月) 静岡 静岡 Freakyshow
9/27(金) 三重 四日市 Advantage
10/5(土) 兵庫 神戸 NICE GROOVE
10/12(土) 福岡 福岡 kawara CAFE
10/13(日) 山口 防府 印度洋
11/1(金) 北海道 旭川 CASINO DRIVE
11/3(祝月) 北海道 札幌 BUDDY BUDDY
11/16(土) 佐賀 佐賀 RAG-G
11/17(日) 熊本 八代 7th Chord
11/23(土) 東京 キネマ倶楽部
11/24(日) 愛知 名古屋 JAMMIN’
11/29(金) 大阪 千日前味園ユニバース
2020.1/12(日) 沖縄 那覇 桜坂セントラル

韻シスト オフィシャルHP
http://www.in-sist.com/

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