宇野維正が解説、チャイルディッシュ・ガンビーノ成功の秘訣は「コメディアン」というアイデンティティにあり

チャイルディッシュ・ガンビーノ(Courtesy of Sony Music Japan International)



もう時効なので書くが、自分は昨年5月にロンドンで極秘裏に行われた、ドナルドのマネージャーも同席していたチャイルディッシュ・ガンビーノの視聴会に参加した。そこで聴かせてもらったのは、その夏にリリースされた「Summertime Magic」と「Feels Like Summer」のマスタリング前音源の2曲だけ。その時点ではまだ、秋までにはニューアルバムをリリースするつもりですべての物事が進んでいた。

また、そこで耳打ちされたのは、「This Is America」をアルバムに収録するつもりはないということ。思えば、ラップソングとして史上初のグラミー最優秀楽曲賞・最優秀レコード賞受賞曲となった「This Is America」は、基本歌モノのチャイルディッシュ・ガンビーノのディスコグラフィーの中ではかなり異色の曲で、「チャイルディッシュ・ガンビーノ」としての音楽キャリアのラストスパートを前にした打ち上げ花火的な作品だった。そう考えると、今年のグラミー賞でパフォーマンスを断っただけでなく、式典そのものも欠席した理由にも察しがつく。

数か月後にどう変化しているのかわからないが(それが現在のアメリカのポップ・カルチャーのスピード感だ)、あくまでも現時点で、「ラップ曲での史上初のグラミー主要部門受賞者」にしてグーグル社の広告塔まで担うトップスターとなったドナルドの置かれている立場はなかなか微妙だ。例えば、ミーゴスのオフセットは最近になって、昨年サタデー・ナイト・ライブでドナルドが披露したミーゴスのパロディネタに対して「バカにされたように感じた」と不快感を表明している。ミーゴスは『アトランタ』1stシーズンに出演もしていたわけで、その信頼関係もあったからこそネタにしたのだろうが、もしそのような冗談も通じなくなるとしたら、コメディ作家出身のドナルドとしては足場を失うことにもなりかねない。

と書きつつ、実はまったく心配していなかったりもする。アメリカにおいてコメディ作家・コメディアンという仕事はーー特にそれが黒人であった場合ーー最も優れたバランス感覚と卓越した知性がないと成功できないトップジャンルであることは歴史が証明している通り。「This Is America」もドナルドにとってはキツいジョークの一つであったはずだが、シリアスに受け止められすぎてしまった(もちろんそこには真顔のメッセージも込められていたわけだが、それも含めてコメディの力だ)。

むしろドナルドのバランス感覚と知性は「Feels Like Summer」(とそのミュージックビデオ)に顕著だったが、それが「This Is America」の余波の中で中途半端に消費されてしまうという計算違いもあった。でも、きっとドナルドのこと、状況の変化もふまえた目の覚めるように鮮やかな次の一手で、我々をまた驚かせてくれるはずだ。

Edited by The Sign Magazine

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