2019年アカデミー賞予測、誰が取るのか?誰が取るべきなのか?

アカデミー賞にノミネートされた、ラミ・マレック、マハーシャラ・アリ、レディー・ガガ(Photo by Alex Bailey/2018 Twentieth Century Fox; Patti Perret/Universal Studios;Shutterstock)

ローリングストーン誌の映画評論家のピーター・トラヴァーズがアカデミー賞を徹底予想。授賞式の夜にオスカー像をさらうのは誰? 栄えある賞にふさわしいのは誰?外国語映画賞には『万引き家族』もノミネート。

今年のアカデミー賞で大事件発生――#OscarsSoWhite(注:有色人種の受賞者が少ないことに対する抗議運動)や#TimesUp(注:セクシャルハラスメント撲滅運動)ではない。たしかに社会インクルージョンはもっと注目されてしかるべきだが、今回の大事件は題して#OscarsSoMoney(金もうけに走ったオスカー)。

今年のアカデミーは映画の質よりも、2月24日にどれほどの視聴者が授賞式のTV中継を見るのかを気にしているようだ。ヴァラエティ誌によれば、放送中に流れる30秒CMの1本あたりの広告費は、授賞式の視聴率が高いときは260万ドルに上ることもあるという。これが問題なのだ。視聴率はノミネーションの顔ぶれによって毎年微妙に変わる。高い年齢層にウケのいいアート系ムービーがノミネーションを占めていると、視聴者数はせいぜい3200万人どまり。2008年に『ノー・カントリー』が作品賞を受賞した時がまさにそうだった。対して1998年、興行的にも大ヒットした『タイタニック』が作品賞に輝いたときは5500万人にはねあがった。アカデミーがこれまで以上に金勘定に躍起になっているのも無理はない。

それから、主催者が今年「最優秀人気映画部門」を新設する計画を立てていたこともお忘れなく。浅はかな考えは幸いおじゃんになった。今年作品賞にノミネートされた8作品のうち、3作品は興行収入2億ドルを突破しているから(『ブラックパンサー』『ボヘミアン・ラプソディ』『アリー/ スター誕生』)、人気度という点はクリアしている。観客の中でもとくに18~49歳の層は、今年もまた夜更かしして退屈な授賞式を見させられるのはごめんだ、と言わんばかり。2018年のオスカーは3時間53分という長丁場だったため、視聴者数は歴代最低の2660万人だった。同じ過ちを犯すまいと固く心に誓ったアカデミーは、今年こそは3時間以内に収めると公言している。また、司会者を立てるのをやめ(必要に迫られてというのもあるが)、受賞者に対しては授賞スピーチを手身近に切り上げるよう厳重注意したほか、撮影賞・編集賞・短編映画賞・メイクアップ&ヘアスタイリング賞の発表をCM中に行うとの決定を下した。

映画界の各組合は、当然ながら猛反対した。昨年の作品賞『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロ監督はこのようなツイートを投稿した。「撮影や編集こそ、映画作りの中核をなすものだ。これらは演劇や文学から生まれたのではなく、映画から生まれた伝統なのだ」 一触即発の事態となり、面目丸つぶれのアカデミーは商業主義に目がくらんだ決定を取り下げた。そもそも、あんな決断をするべきではなかったのだ。

だいたい理由はなんだ――視聴率? ハリウッドはハリウッドでいいではないか。最も優れた作品を称えるべき年に1度の祭典なのに、それを短縮してまで金儲けに走る必要はあるのだろうか?芸術上の功績よりも興行成績を優先させれば、最悪の場合アカデミーの存在意義を貶めることにもなる。各部門の規範を向上させ、維持してゆくことが本分のはず。一般大衆の嗜好をくみ取る賞なら、すでにピープルズ・チョイス・アウォードがあるではないか。嗚呼。

それでは、今年のオスカー14部門を見てみよう。勝利を手にするのは誰か、そして賞レースを面白くするのは誰だろうか。

作品賞
『ブラック・クランズマン』
『ブラックパンサー』
『ボヘミアン・ラプソディ』
『女王陛下のお気に入り』
『グリーン・ブック』
『ROMA/ ローマ』
『アリー/ スター誕生』
『バイス』

批評家から鼻であしらわれた『ボヘミアン・ラプソディ』がノミネートされ、幅広い層から絶賛された『魂のゆくえ』や『Eighth Grade(原題)』が選に漏れたのは、どう説明すればよいのだろう? 8作品の中に『ファースト・マン』が加わっていないのは、興行的に失敗作だったからだろうか? 『アリー/ スター誕生』は当初の勢いを失って、もはや作品賞最有力とは言われなくなったし(これも謎)、『ROMA/ ローマ』、『グリーン・ブック』、『女王陛下のお気に入り』、『バイス』は大したヒットを飛ばしていない。ドル箱映画『ブラックパンサー』(全世界の興行収入は13億ドル)は、これまで軽視されてきた黒人の観客に、見た目も話し方も自分たちそっくりなスーパーヒーローに自己投影するチャンスを与え、商業的な成功と芸術性を合致させた。

本命:『ROMA/ ローマ』
理由は単純明快。メキシコシティでの幼少期を振り返るアルフォンソ・キャロンの心の旅が、今年はどの映画よりも頭ひとつ抜きんでているからだ。だが、それだけで十分だろうか? モノクロの回想録は全編スペイン語――91年間のアカデミーの歴史において、外国語映画が作品賞を受賞したことはいままで一度もない。しかも『ROMA/ ローマ』は、ハリウッドの大手スタジオのお偉方を怒らせているストリーミングサービスNetflix配信の作品ときた。ということは、次に可能性があるのは……

大穴:『ブラック・クランズマン』
オスカーにとってはDo The Right Thing、正しい行いをする絶好のチャンス。作品賞に初ノミネートされた無冠の巨匠、スパイク・リーに今年こそ賞を与えようではないか。だが、マーヴェルの超人気作『ブラックパンサー』が受賞しても歴史的快挙となる。作品賞にノミネートされた初のコミック映画、それも名作コミックだ。我々の予想は、いずれも歴史を変えることとなる以上3作品のいずれかだ。

Translated by Akiko Kato

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