フレディ・マーキュリー、死と対峙したクイーン最後の傑作とは

病に侵されたフレディ・マーキュリーが死と対峙した、91年のクイーンのアルバム『イニュエンドウ』を振り返る。 John Rodgers/Redferns/Getty

現在絶賛公開中の『ボヘミアン・ラプソディ』で、再び注目されている伝説のイギリスのロック至上主義バンド、クイーン。1991年の冬、フレディ・マーキュリー、ギターのブライアン・メイ、ベースのジョン・ディーコン、ドラムのロジャー・テイラーからなるオリジナルメンバーで最後となる傑作アルバムをリリースした。デヴィッド・ボウイの遺作『ブラックスター』と同じく、マーキュリーの生存中に発売された最後のアルバム『イニュエンドウ』で、クイーンは死と真っ向から向き合った。

91年2月5日のリリース当時、ヴァニラ・アイスの90年のポップラップ・メガヒット『アイス・アイス・ベイビー』が、いまだビルボードの「ホット・ダンス・クラブ・プレイ」チャートをにぎわせていた。この曲は、81年にクイーンがデヴィッド・ボウイとコラボしたシングル『アンダー・プレッシャー』から、ディーコンの特徴的なベースラインを盗用していた。そんな折、まるで救いのようにファンの元にもたらされたアルバムが、『イニュエンドウ』だった。 (「初めて聴いたのはファンクラブの1階だった」と、メイは『アイス・アイス・ベイビー』について、Q誌の91年3月号で語った。「「おもしろい。でも、こんなゴミに金を払う奴なんているのかね」って思ったけど、間違ってたね」)

2016年1月、クイーンと親しかったデヴィッド・ボウイが、ラストアルバム『ブラックスター』のリリース直後に肝臓がんでこの世を去ったのを受け、マーキュリーがHIV感染合併症による肺炎のため逝去した9カ月前にリリースされた『イニュエンドウ』の悲劇性と比較する向きもあった。80年代後半、公の場に表れた際の衰弱した様子 ― 殊に90年、ロンドンのドミニオン・シアターで開催されたブリット・アワードでクイーンが特別功労賞(Outstanding Contribution to British Music)を受賞した際の、ひどくやせ衰えた姿でメイの後ろに控える様子(これが、マーキュリーが公の場で見せた最後の姿となった)― から、マーキュリーの健康状態が芳しくないという噂が広がった。それにもかかわらず、彼の健康状態の悪化に関する噂は頑なに否定された。ドラムのロジャー・テイラーはリポーターに対し、彼は「健康で仕事もしている」と主張し、BBCのラジオ1で放送された貴重なインタビューで、マーキュリーは健康に関する質問を即座にかわしている。

「フレディは驚くほど平静で、僕に愚痴をこぼしたことは一度もなかった」と、メイは2011年にBBCで放送されたクイーンのドキュメンタリー『輝ける日々』で明らかにした。「ある晩、一緒に出掛けたんだ。あいつの足はひどい状態だった。僕の視線に気づいたみたいで、「ブライアン、見てみるかい?」って言って見せてくれたんだけど、僕の表情を見て、「本当にごめん ― そんな顔させるつもりじゃなかったんだ」と言った。あいつは一度だって、「こんなのひどすぎる。僕の人生は最悪だ。僕は死ぬんだ」なんて言わなかった。ただの一度だって。驚くほど強い奴だった」

Translation by Naoko Nozawa

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