15. 『トゥモロー・ネバー・ノウズ』の鳥の鳴き声は、ポール・マッカートニーのサウンド・ラボラトリーで制作された
『リボルバー』の最初のセッションの時点では、この曲の仮題は『Mark I.』だった、ビートルズの伝承によると、検討されていた題名は『The Void』(無効、排泄)だった。ジェフ・エメリックの記憶によると、レノンはよりよいヴォーカルのサウンドを見つけるのに夢中で、ブレーンストーミングの末に奇妙な録音方法を考え出したのだった。
「レノンは、スタジオの天井の真ん中から自分をつり下げ、床の真ん中にマイクを設置し、そうして自分を押してくれ、自分はゆれながら歌うから、と提案した」
マッカートニーは自伝『メニー・イヤーズ』で、別の作曲セッションを振り返っている。「ジョンが自分のギターを取り出して、『トゥモロー・ネバー・ノウズ』を作り始めた。コードはたった1種類だった。というのも、当時僕らはインドの音楽に興味を持っていたからだ。僕らはみんなで座ってインドのアルバムを聴いたものだったが、アルバムが終わると”コードが一度も変わらなかったことに気がついたか?"なんて言い合ってたんだ。”畜生、全部Eじゃないか。なんて斬新なんだ"」
今にして思えばこの曲は純粋にレノンっぽいけれど、実際には共同作業で作られた。曲の頭の特徴的なコードはハリスンの仕事だ。一方マッカートニーは例によって繰り返しの王様だ。
『トゥモロー・ネバー・ノウズ』で聞かれる、あの興奮して地獄から飛び出してきたような鶏の鳴き声は、マッカートニーが作ったテープを切り刻んで作ったものだ。テープにはディストーションを効かせたギターやベース、ワイングラスがぶつかり合う音などが収録されていた。それらをスタジオの5台のテープマシンで再生し、フェーダーを駆使したのだ。
コントロール・ルームでは、ジョージ・マーティンとジェフ・エメリックが「ここでカモメの声!」と叫んでいたのだろう。こうして人類の鼓膜の歴史に存在しなかった音風景が、世界に放たれたのであった。
これほどまでにリボルバーっぽいことってあるだろうか。