マルーン5のサード・アルバムで、すでに磨き上げられた彼らのサウンドは、高いグロスのような艶を出している。AC/DCの『バック・イン・ブラック』やデフ・レパードの『パイロマニア』、シャナイア・トゥエインの大ヒットで知られるロバート・“マット”・ラングをプロデューサーに迎えた『ハンズ・オール・オーヴァー』の12曲は、すべての曲が4分以内に収まり、Aメロが普通のバンドのサビよりもキャッチーだという、効率の良さとクラフトマンシップのお手本のような作品だ。
 先行シングルとなった「ミザリー」で、活発なグルーヴの上に、フロントマンのアダム・レヴィーンが甲高いテナーを浮かばせる。「僕は惨めさ」とレヴィーンは歌うが、それほど惨めには聴こえず、オイルの効いたグループをペースに合わせてガイドする、卓越したバンド・リーダーといった感じである。
 スティーヴィー・ワンダーとマイケル・ジャクソンとポリスはいまだにレヴィーンの大きな影響元だが、彼はカントリー(レディ・アンテベラムがハーモニーで参加した「アウト・オブ・グッバイズ」)や、パワー・ポップ(「スタッター」)にも手を伸ばしている。問題は、『ハンズ~』が本来の半分ほども楽しくないということだ。
 タイトル曲はデフ・レパードのアリーナ・ロック・ソングのバカげたモノマネで、ぶっきらぼうなパワー・コードに乗せながら「きみの手をすべて僕に委ねて」とレヴィーンが叫ぶ。しかし、マルーン5は心のこもったパーティーを約束できるようになるには少し凝り過ぎで、神経質過ぎる。レヴィーンと仲間たちはブルー・アイド・ソウルの神に、21世紀のホール・アンド・オーツになれるかもしれないが、まずはその前にルーズになるべきだ。

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