100マイルズ・フロム・メンフィス

 メンフィス近郊で、スタックスやハイ・レコードの伝統を直接肌で感じながら育ったシェリル・クロウ。こうしたレーベルのR&B、ロック、カントリーのフュージョンは常に彼女に最良の音楽をもたらした。そのため、このしっかりと練り上げられたトリビュート作品に安心感を覚えるのは自然なことだろう。彼女のスモーキーなヴォーカルは、このシーンの誰よりも弱々しい。しかし、クロウは聴かせどころを心得ている。
 心の痛むようなバラード「ストップ」では、アレサ・フランクリン風のスタイルを取り入れ、リズミカルな「ピースフル・フィーリング」では「音楽に合わせて踊りましょうよ」と投げかける。その自信たるや、これらの曲を聴いたら思わずジュークボックスでリクエストしたくなるだろう。
 共同プロデューサー、ドイル・ブラムホールⅡによる編曲もフレッシュ。単なる懐古趣味ではない。キース・リチャーズが参加する「アイ・トゥ・アイ」では、クロウはトゥーツ・ヒバート風の力強いレゲエ・グルーヴに乗る。「セイ・ホワット・ユー・ウォント」は、サラ・ペイリン的な平手打ちをブチかます(“あなたが私に再び荷物を積み込むようにと言うのが聞こえた/誰かがマイクのコードを引き抜く”)。ジャスティン・ティンバーレイクは、アル・グリーン風&テレンス・トレント・ダービー的サウンドの「恋愛契約」に登場する。カヴァー曲の「帰ってほしいの」では、マイケル・ジャクソンに対するリスペクトを表明。自分の歌声をバック・コーラスとして使うことで、恩師マイケルに対する気持ちを表しているのだ。

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