ポップ・ミュージック界広しといえど、エリカ・バドゥのハスキーな声は、最も魅力的な歌といっても過言ではない。前作でのネオソウルから離れて、エレクトロニック・ミュージックの方向に舵を切った新作。ロマンティックな側面を復活させ、1972年の温かな日差しが降り注ぐ日を思わせるサウンドを展開。ゴージャスな「ウィンドウ・シート」では、極上のメロウな歌声が、ジャジィなフェンダー・ローズのループに乗る。
難があるとすれば、くぐもったテクスチャーが気になることと、そしてあえて言うなら、エキセントリックさにこだわりすぎて、曲作りそのものがおろそかになってしまっている点だろうか。「ラヴ」では、走り書きのような音のコラージュに女のささやきが重なる。「人間が経験するのはふたつの感情だけ。それは恐怖と愛」と。本作で彼女が最もパワーを放つのは、このように彼女がストレートに感情を投げかける時だ。