Fat Dogとは何者か? 規格外のサウスロンドン狂犬軍団が語る「レイヴ×パンク」の融合

 
デッドマウス、空手、カウボーイ

―あなたが10代の頃に、主にどんな音楽を聴いてきたのか教えてください。

ジョー:そうだなぁ……たくさんある。ひとつ言えるのは、その頃にダンス・ミュージックを聴き始めたことだね。例えばナイン・インチ・ネイルズやデッドマウスとか。正直、デッドマウスは本当に大好きだった。とにかく色んなものを山ほど聴き漁っていた感じ。音楽は格好の逃避の場だったんだ、特に学校でね。学校では手当たり次第に音楽を聴いていたし、そうやって、「自分は学校にいる」って事実から目を逸らそうとしてた。学校は退屈だったし、あの場にいる連中も嫌いだったから、一日中ヘッドフォンを着けて音楽ばかり聴いていた。そういう、素敵な逃避の場が音楽だったわけ。



―どのような音楽経験や影響があってファット・ドッグの音楽の基盤ができたのでしょう?

ジョー:うーん、何だろう? まあ、デッドマウスとファット・ホワイト・ファミリーが混ざり合ったもの、ってところじゃないかな。それと、ちょっとばかりフィリップ・グラスも。

―フィリップ・グラスは意外ですね。

ジョー:僕が「そう響いて欲しい」と願っているだけで実際はそう聞こえないのかもしれない。でも例えば、「Running」にコード進行とかがフィリップ・グラス調な箇所があって、あれはかなり気に入ってる。ただ、自分でもはっきりとは分からない。「テクノなフィリップ・グラス」ってところ?



―ちなみに、デッドマウスがそんなに好きな理由は何でしょうか?

ジョー:何でだろう? 思うに、これは僕だけじゃなくクリスのことも代弁できるよ。あいつも僕と同じだったから。つまり、13歳のキッズなら誰でもフライドチキンを食べながら、デッドマウスを聴いて、マインクラフトをがんがんプレイして過ごすものだってこと(笑)。

―なるほど(笑)。

ジョー:そうしてると安心できるし、和むんだ。実際ある意味、僕が音楽のプロダクションにハマったのもマインクラフト経由だったし。でも、どうしてデッドマウスが好きなんだろう? あれはまあ、若い子が聴くぶんには、かなり良いダンス・ミュージックだと思う。すごくカラフルだし、聴き手の興味をそそり、引き入れるところも少しあるし。今で言えば、さしずめマシュメロが彼に当たる存在なんじゃない? でも、マシュメロはちょっとインチキくさいかな(笑)。僕の養兄弟はRoblox(ゲームを自作してシェアすることのできるオンラインプラットフォーム)にハマってて、マシュメロがゲーム内でギグするのを2時間も待ってたんだって。そんなのはほんとバカげてる(苦笑)。



―どんな音楽への反発心がありますか? 聴いていて我慢ができないとか、そういう音楽はありますか?

ジョー:それは聴く時の精神状態次第かな。例えば心を落ち着かせてくれる音楽を聴きたい時にバリバリのテクノが爆音で鳴っていると、さすがに少々イラつかされる。逆に気分がノってる時は盛り上がるよね。でも、敢えて言えば、「エレクトロ・スウィング」ってジャンルだな。あれはおそらく、史上最悪のジャンルだ。そうは言っても、中にはバンガーな良い曲もある。「We No Speak Americano」なんかはマジで踊れる曲。

―ジョーさんはいつ頃からどんなクラブやヴェニューに通っていたのでしょう?

ジョー:ウィンドミルがそれに当たるんだと思う。あのヴェニューを発見した時だね。あそこはバンド音楽が最高だし、僕たちも目当てのバンドを観に行ったり、あるいは自分たち自身が出演して共演バンドを観たり。特にPeeping Drexelsの連中は、そういうのが好きだった。あそこでギグをやるのはそんなに難しくないし、そんなこんなでバンドたちにとって一種の大きなプラットフォームになった。今でもそれは変わっていない。


ウィンドミルで演奏するファット・ドッグ(2023年)

―ジョーさんはカウボーイ・ハットに空手着の姿がおなじみですが、その独特なスタイルに行き着いた経緯を教えてください。

ジョー:はは(笑)。ちなみに、君はどう思う? 日本で空手着をああいう風に着るのって、ちょっと失礼かな?

―いや、大丈夫だと思いますよ。映画『ベスト・キッド(The Karate Kid)』のヒット以降、一種のコスチュームになっていますし。カウボーイ・ハットとの組み合わせはかなり無節操には見えますが(笑)。

ジョー:あれは僕の姉妹が思いついたアイディアなんだ。空手着について言っておくと、実は空手のレッスンは2、3回受けたことがある。6歳頃の話だけど、インストラクターがめっちゃ怖い人だったから、稽古中に思わず小便ちびっちゃって。それで、「あのインストラクターは怖過ぎる、もう二度と行くもんか!」と誓った。そんなわけで、僕も空手にちょっとだけ足を突っ込んだことはあるんだ。


Photo by Pooneh Ghana

―カウボーイには愛着があるのでしょうか?

ジョー:僕は南ロンドンのカウボーイさ(笑)。

―でも、あなたはノーフォーク出身なんですよね?

ジョー:そうだよ。

―資料のバイオによれば、七面鳥農家に生まれたそうですね。農家暮らしとカウボーイのイメージがだぶる、とか?

ジョー:農家で働いていると、「自分はカウボーイ」と空想が湧く。だから作業中も、農場内をカウボーイ・ハットを被ってうろついたものだよ。あれはナイスだった。

Translated by Mariko Sakamoto

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