ゴート・ガールが語るUKフォーク新潮流への共鳴、「デジタルvs自然」の異世界サウンド

Photo by Holly Whitaker

シェイムやブラック・ミディらと共にサウス・ロンドンを起点としたバンド・シーンで頭角を表し、英国ロックの新たな世代を牽引する一翼を担ったゴート・ガール。その嚆矢となった2018年のデビュー・アルバム『Goat Girl』から早6年――コロナ禍にリリースされた前作『On All Fours』(2011年)に続く3年ぶりのニュー・アルバム『Below the Waste』は、3作目にして彼女たちに訪れた「変化」を強く印象づける作品だ。

そしてその大きな要因として挙げられるのが、前2作を手がけたダン・キャリーに代わって共同プロデューサーを務めるアイルランド人エンジニア、ジョン・スパッド・マーフィーの存在だろう。ランカムやキャロラインのプロデュースで知られるマーフィーは、近年英国/アイルランドで気運を見せる新たなフォーク・リヴァイヴァルのキーマンとされる人物で、実際に彼の手がけた作品が今回のサウンドではリファレンスの重要なひとつになっているという。レコーディングではバンジョーやアコーディオン、クラリネット、大正琴など多くのアコースティック楽器が使われ、「ポスト・パンク」な質感のなかにも彼女たちの音楽のルーツにあったブルージーでフォーキーなテイスト、さらには “ドゥーミー”な音像がエレクトロニックなプロダクションとコントラストをなすかたち強調されているのが特徴だ。

前作後にギター/ヴォーカルのエリー・ローズ・デイヴィス(L.E.D.)がバンドを脱退し、トリオとして新たな体制で制作に臨むことになった『Below the Waste』。「それぞれの開拓してみたい方向性をもっと広げることができるようになったと思う」――そう自負する彼女たちの言葉からは、さまざまな決断も前向きに捉えて創作活動に没頭する様子が伝わってきて頼もしい。



―ニュー・アルバムの『Below The Waste』は3作目にして初めてトリオで制作された作品になりますが、3人になったことでこれまでとの違いや変化を感じるのはどんなところですか。

ロージー:声が一人分減ったというのが良かった点かな(笑)。ヴォーカルの声という意味ではなくて、意見が一人分減ったという意味。メンバーが少なくなったのはもちろん悲しいことだけど、一人減ったということで楽にはなった。自分たちは音楽を作っている時は民主主義的なアプローチを取っているから、一人ひとりの意見を聞いて、全員が納得してから物事を進めている。そういう意味では効率性が上がったかな。

ホリー:客観的に見て、納得させる必要のある人が一人減ったということだよね。

ロージー:そうそう。

ホリー:3人の方が、それぞれの開拓してみたい方向性をもっと広げることができるようになったと思う。減った人が、それを阻止していたというわけではないけど、特にロージーと私は、3人体制になってから色々な楽器を演奏する機会が増えた。それからサウンドも変わったと思う。この3人のフィードバックが入っていて、音楽性が少し違っていた、抜けたメンバーのフィードバックは入っていないから。メンバーが脱退することによって、自分個人としてのテイストがより明確になったから、それが今回のサウンドに反映されていると思う。

―やりたい音楽がよりシャープに、かつワイドになった?

ホリー:うん。私たち3人は、ゴート・ガールを続けていくという選択肢を取って、このアルバムを完成させた。新体制で音楽をやることに適応しなければいけなかったから、結構大変だったのよ。続けていくことに対するプレッシャーはあったけれど、それはポジティブに転化されたと思う。私たちには書き上がっていた曲がたくさんあったし、もうすぐレコーディングする予定もあった。だからバンドとして団結して、とにかくやるしかなかったのよ。

ロージー:(頷いている)

―『Below The Waste』は、ゴート・ガールの新たな側面が引き出された作品であると同時に、ルーツの深い部分にあらためてフォーカスが当てられた作品でもあると感じました。今回のサウンドに関して、3人の間で共有していたアイデア、あるいは個人的に持ち寄ったテイストはどんなものでしたか。

ロティ:今回のアルバムは、作曲という作業を3人でしていたから、とてもコラボレーション色が強かった。メンバーそれぞれには強みや得意分野があるけれど、例えば私の場合は、核となるメロディや、何かアイデアを思い付いたら、それを2人に提示する。すると、2人はそのアイデアの可能性を引き出して、曲という形にしてくれる。この流れがとても楽しかった。「ride around」という曲は、私が最初のセクションを自宅で作ったけれど、私たちは色々な楽器を交代で演奏したり、即興で演奏することに自信がついてきていたこともあり、次のセクションは、みんなで同じ部屋にいるとき、ジャムしながら、お互いのフィーリングを感じ取って一緒に書くことができた。だから、個人的なアプローチと、持ち寄ってきたアイデアをみんなで発展させていくという作業の融合だったと思う。この2人と一緒に作曲することで、新しい視野が加わるし、曲の文脈をみんなで明確にしていくことができる。この2人は音楽を聴くのが上手だから、私が書いたメロディも、もちろん聴いてくれるけれど、そこから新しいメロディが聴こえてきたりもするんだ。お互いの信頼関係がさらに強化されたから、自分の「赤ん坊のような要素(=メロディやアイデア)」を安心して他のメンバーに預けられるようになった。

ホリー:そんなこと言われたら嬉しくて泣いちゃう〜(笑)。ゴート・ガールの音楽から聴き取れると思うけれど、私たちにはそれぞれ独自のスタイルやテイストがある。「tcnc」はロージーが作曲して歌った曲だけど、ロージーが(音楽制作ツール)FL Studio (Fruity Loops)を使って作った、壮大なインストのセクションが基盤になっているし、私がピアノの弾き語りをしている絶望的なバラードもある。メンバーそれぞれに独自のスタイルがあるんだけど、それが合わさるとゴート・ガールという世界が出来上がる。

ロージー:『Below The Waste』になるってことね。

ホリー:ロティが話していたように、そのプロセスは信頼関係に基づいていて、私たちはなるべく自分のエゴと、バンドとしての制作を切り離すようにしている。難しいことなんだけどね。例えば、誰かがある曲で最高な要素を持ち込んだら、「じゃあ自分もこの曲で最高な要素を加えなくては」とは思わない。その人が持ち込んだ要素をリスペクトする方が良い曲が出来上がると思う。



―今回の曲作りでは、さまざまなスタジオ(※ブラーのデーモン・アルバーン所有のStudio 13など)に舞台を移しながら、思いつくアイデアはなんでも試してみるやり方がとられたそうですね。そのなかで、これまでやったことがなかった新たなアプローチ、やってみて手応えを感じたアプローチとなると、どんなのが挙げられますか。

ロージー:以前は、メンバーが同じ空間にいてライヴ録音していたんだ。だからドラム、ベース、ギターが同時録音されていた。そうすると、最高なライヴ感が出て良かったんだけど、今回は、録音後でもドラムの音を取り除くとか、録音過程でも、曲の構成を変えたり、違った構成で曲を聴き直したりして、作曲を続けたいという思いがあった。レコーディングは今回もライヴで3人同時に録音したんだけど、ベースアンプをキッチンに配置したり、古い鳩小屋みたいなところをギター室にしたりして録音したんだ。だから以前みたいなライヴ感は残しつつ、後から不要な要素を取り除いたり、新たな要素を追加することができた。つまり、プロデューサー的な判断ができたと思う。なぜなら、自分が実際にライヴ演奏していると、曲の全体像が見えにくくなる時があるんだ。だから録音したものを聴き返して、「これはこっちのタイミングの方がいいな」とか「ここのドラムを変えよう」という考え方ができた。今回のアルバムではそういうアプローチが上手くいったと思う。

―まさに今話してくれた「プロデューサー的な判断」というところで言うと、今回の制作では共同プロデューサーを務めたジョン・スパッド・マーフィーの存在も大きかったのではないかと想像します。彼の仕事のどんなところに惹かれてオファーをすることになったのでしょうか。また実際に彼との共同作業を通じて得た成果はなんでしたか。

ロティ:そもそも、今回はプロデューサーとしてではなく“共同プロデューサー”としてこのアルバムに参加する興味と意欲のある人を探していたんだ。そういう人を見つけるために、私たちは何人もの有能なプロデューサーと会って話をした。そのなかでジョンと話しているときに、すごく腑に落ちたんだよね。アイデアについて話している時も、双方のアプローチをすぐに理解することができて、お互いに対する共感があった。その後、一緒にレコーディングをするとなったときに、その前にジョンはわざわざアイルランドからロンドンまで会いに来てくれて、私たちの世界観を理解するよう努力してくれた。アルバムを一緒にプロデュースする上で、そこを理解することが一番重要だと彼に言われたんだ。「共通する“言語”を見つけよう」って――音楽的言語という意味だよ。音楽の説明や話をするときに、ある人が何か言って説明しても、別の人がそれを聞いたら全く違う解釈をする場合がある。だから、私たちの間にあるお互いの共通認識を見つけることが重要なのだと。ジョンとは、自分たちが聴いていた音楽をたくさん共有したよ。自分たちの作りたいアルバムに近いサウンドのトラックや、インスピレーションを受けたトラックとか。その過程は私たちにとって非常に役に立った。私たちとジョンが事前に共通した認識を持って、レコーディングに臨むことができたことはスタジオでの自信にもつながったと思う。 

ホリー:彼が今回のアルバムにもたらしてくれた成果としては、彼は膨大な知識と経験の持ち主で、我慢強さ(辛抱強さ)もあるということ。その辛抱強さには救われたわ。それにスタジオのこともよくわかっている。そして、ロティが言ったように、共通言語を見つけるために私たちはジョンと連絡を取り合って色々な話をしていたから、レコーディングする時点では友人関係のようになっていた。そのおかげで、実際にレコーディングの時も、私たちが何か突飛な意見を言ったとしても、彼はそれをちゃんと聞き入れて、完璧な対応をしてくれた。例えば「金属を鳴らしたい」とか「ここは皿が回っている感じにしたい」とか「外で録音したい」などという私たちの意見を静かに受け入れて、実現してくれた。それがすごくクールだった。彼は演奏の実技にも長けている人で、昔はチェロを演奏していたらしいわ。だからレコーディングの技術的な側面にも詳しくて、私たちはそういう知識があまりなかったから、それもすごく勉強になった。彼の一番良いところは寛容なところね。私たちは、携帯の音声メモや、見つけてきたサンプルなどを使ったり、ハイファイな部分やそうでない部分を入れて、アルバムをコラージュみたいに繋ぎ合わせたいと思っていたの。その考えや方法に興味を持ってくれたし、それを受け入れてくれた。


Translated by Emi Aoki

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