オアシス再結成を機に、永遠のデビュー作『Definitely Maybe』30年目の再検証

Photo by Paul Slattery.

 
2024年はオアシス(Oasis)の1stアルバム『Definitely Maybe(邦題:オアシス)』発売30周年という記念すべき年。11月1日(金)から六本木ミュージアムで大規模なエキシビション『リヴ・フォーエヴァー:Oasis 30周年特別展』が開催されるというビッグニュースに続いて……まさかのギャラガー兄弟和解が実現した。2009年に解散したオアシスが正式に復活、2025年夏に行なうUK/アイルランド・ツアーの日程を発表して世界中を騒がせている。

全てを可能にした“鍵”は、『Definitely Maybe』30周年という節目。このロック史に名を残す名盤の『30周年記念デラックス・エディション』が、2CD、4LP、デジタル、2LP、カセットの全5形態で8月30日にリリースされる。今回のリイシューの目玉は、同作の初期レコーディング・セッションから「モノウ・ヴァレー・スタジオVer.」が収録されたこと。さらにソーミルズ・スタジオで録り直した際のアウトテイク、そしてクリエイションと契約する以前の92年11月に録音された「サッド・ソング」まで収められており、無名の新人バンドがどのようにして我々が知る『Definitely Maybe』を生み出したのか、そのプロセスが手に取るようにわかる作品だ。


「Oasis Live '25」トレイラー映像


『Definitely Maybe(邦題:オアシス)』30周年記念デラックス・エディション
左:2CD 右:4LP

幻のセッション音源「モノウ・ヴァレー・スタジオVer.」を今聴く意味

クリエイションのアラン・マッギーは「1993年5月に初めてオアシスを見て、何よりも印象的だったのは、彼らのライヴ・サウンドがすでに完成されていたってことだ。King Tut’s(グラスゴーのライヴハウス)でやってるのに、まるで大きなアリーナで演奏しているようなサウンドだった。これはバンドに良い楽曲があり、音響マンのマーク・コイルがいたおかげだ。その最初のギグを見た時から、彼らのあるべきサウンドが私にはわかっていた」と証言している。ノエル・ギャラガーが書く曲の強力さと、ラウドなバンド・サウンド……彼らの1stアルバムで何をやるべきか、方向性はかなり早い段階から見えていたはずだった。




クリエイションと契約後、1993年の暮れからモノウ・ヴァレー・スタジオで始まったレコーディングには、センセーショナル・アレックス・ハーヴェイ・バンド(以下SAHB)の『The Impossible Dream』(1974年)から『SAHB Stories』(1976年)までを続けて手掛け、パンク/ニュー・ウェイヴ登場以降はウィルコ・ジョンソンのソリッド・センダーズや、スキッズ、スタージェッツなどを手掛けたプロデューサー、デイヴ・バッチェラーが起用された。グラム・ロックとも重なるセンスを持つロックンロールの猥雑さを濃縮したようなSAHBのサウンドは、いかにもノエルの好み。しかし残念ながら、プロデューサーとバンドは相性が合わなかった。

デイヴ・バッチェラーが選んだ一般的な録音方法……各楽器の音が干渉し合わないようパーテーションで仕切り、ヘッドフォンでモニターしながら演奏するやり方が、本格的なレコーディングを初めて経験するバンドにはそぐわず、メンバーを戸惑わせた。アランもバンド側も出来上がりに満足できず、破棄された「幻の1stアルバム」が、今回お蔵出しされた「モノウ・ヴァレー・スタジオVer.」なのだ。そのうち、「Bring It On Down」は『Definitely Maybe』20周年記念盤の日本盤(2014年)にボーナス・トラックとして収められ世に出ているが、公式にここまで多くの音源が世に出るのは今回が初めてだ。

「モノウ・ヴァレー・スタジオVer.」は、先述のような録音方法が原因なのだろう、バンドとしてのまとまりに乏しく、『Definitely Maybe』の特徴であるラウドさも足りない。シンガーとしてのリアムのキャラクターもまだ固まっていないが、その分発展途上のバンドを覗き見するような楽しみがある。アラン・マッギーが今回のエディションで聴き直した「モノウ・ヴァレー・スタジオVer.」について、「つくづくあれを破棄しておいて良かった」と言いながら、「そこには別の魅力がある。なんてバンドだ」とコメントしている気持ちもわかる。“並のインディ・ギター・バンド”から脱却しようともがく彼らの演奏は、初々し過ぎて眩しいほどだ。


「Up In The Sky (Monnow Valley Version)」リリック・ビデオ

「モノウ・ヴァレー・スタジオVer.」はアレンジも完成版とあちこち違う。リードギターなしでリズムギターから始まる「Rock ‘n’ Roll Star」のイントロを聴くと、この曲が後にカバーするローリング・ストーンズの「Street Fighting Man」からヒントを得ていることがハッキリとわかるはず。そういう意味では、「The Hindu Times」や「Lyla」へと続くシリーズの始まりが「Rock ‘n’ Roll Star」だった、と言えそうだ。また、アウトロが変に長いのも面白い。ちょうどいい繰り返しの回数が見つからず、迷っているように聞こえる。

特に驚いたのが「Live Forever」。ドラムによるイントロがなく、いきなりリアムの歌から始まるのだ。しばらく弾き語り風に進んで、遅れてドラムが入ってくるアレンジも、完成版と比べて随分おとなしい。すでにギターソロはすっかり出来上がっているが、全体の雰囲気はミドルテンポのロックチューンというより、バラード寄り。『Definitely Maybe』に収められたヴァージョンの力強さとは異なる、不思議な魅力がある。

「Cigarettes & Alcohol」は基本的なアレンジはそう変わらないが、リアムのヴォーカルがまだかなりソフトで、セックス・ピストルズのジョニー・ロットンを思わせる歪みが声に加わっていない。そして終盤のギターソロに注目を。「Supersonic」でおなじみのフレーズが一瞬ここに登場するのだ。『Definitely Maybe』ヴァージョンのギターソロと聴き比べると、「このパーツはあっちで使おう」とノエルが判断したのだろうと推測できる。

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