吉乃がZepp DiverCityに刻んだ「爪痕」、ボカロ文化への敬愛と歌い手としての誇り

ミディアムテンポのエレクトロポップ「うつけ論争」に続き歌われたのは、キタニタツヤのカバー「青のすみか」。こうした男性ボーカル曲も歌い上げる声域の広さは大きな魅力だ。両手を叩いて煽ると、会場中がクラップで1つになった。身振り手振りで力の籠った「狼煙」から、清廉なハイトーンで聴かせた「ドリームレス・ドリームス」、ピアノの旋律と寄り添うように歌い上げた「回る空うさぎ」とバラードを続けて惹きつけた。

ビジョンの映像と照明が明るくステージを照らし、吉乃のシルエットがクッキリと浮かび上がる。取り上げられたのは、みきとP「少女レイ」。ジャングルのリズムとアコースティックギターが融合したラテンフレーバーのアップテンポなトラックと、セミや踏切の効果音が夏らしさを演出する中、儚さと切なさを内包した歌唱が光った。「夕景イエスタデイ」で楽しそうに踊りながら伸びやかに歌って楽しませると、ラウドチューン「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」では一転して激しくダークな面を見せる。「さあみなさん、ライブも終盤になりましたが、まだまだいけますか東京ー!? 私に続いてご唱和ください!」と呼び掛けると、〈さァさァ、密告だ 先生に言ってやろ〉、〈チュルリラ チュルリラ ダッダッダ〉とコール&レスポンスで一体となった。壮大なコーラスが会場中を包み込んだ「メルト」を歌い終えると、ツアーの終わりを惜しみつつ、最後の曲「誰かの心臓になれたなら」へ。吉乃を囲むブースの頭上にインスタレーションの演出で雨が降り注ぐ。その雨を受け止めるように見上げて手を拡げ、情念を感じさせる歌声を聴かせた。

すかさず起こったアンコールの声に応えると、ノイジーなロック「ヒバナ」で拳を突き上げる吉乃とオーディエンス。「今という今日この瞬間を最高に盛り上げて行きましょう!」と叫んで始まった「DAYBREAK FRONTLINE」でさらにヒートアップ。リズミカルに淀みなく歌う吉乃の、終盤に来てもなお人々を鼓舞する力強いボーカルに感動すら覚えた。曲中、「みなさん、今日は私をここに立たせてくれて本当にありがとうございます! 明日も明後日もこんな日々が続いたら、私は幸せです!」と感謝を伝えると、天井から銀テープが降り注ぎ、会場は大きな多幸感に包まれた。



「今後のライブでは、全曲カバーは想定しなくて、オリジナル曲も含めてやらせていただきます!」と宣言すると、大歓声。さらに10月放送開始のTVアニメ『ひとりぼっちの異世界攻略』オープング主題歌「ODD NUMBER」にてメジャーデビューすることを改めて伝えると、「おめでとうー!」と吉乃を祝福する観客たち。「次にお会いするまで少し時間は空いてしまうんですけど、もしみなさんがこの先、自分の未来を信じられなくなったときは、あなたに救われた人間がここにいることを思い出してください。あなたの幸せを、あなたの未来を信じてやまない人間がここにいると覚えておいてください。もっともっと素敵な歌を歌って、みんなに最高の景色を見せられたらなって思ってます。また会える日まで、私たちが笑顔で過ごせる日々を願っています」。

MCのメッセージと繋がるように、最後に歌われたのは「君の神様になりたい」。ブレスの隙間もないような旋律を感情の入った迫力の歌唱で聴かせた。「もっともっと大きくなって、必ずまたみんなに会いに来ます! いつかまた、夢の舞台でお会いしましょう! 今日は本当にありがとうございました。吉乃でした!」。叫ぶようにそう告げると、左右の幕が閉じてツアーファイナル東京公演初日は終了した。渾身のパフォーマンスで聴かせた2時間、20曲は、吉乃の歌声の魅力はもちろん、さまざまな楽曲の素晴らしさも伝えるもので、そこにはボカロ文化への敬愛と歌い手としての誇り、強い意思が感じられた。今後、フィールドを拡げていくであろう吉乃がどんなオリジナル曲を聴かせてくれるのか、おおいに期待したくなるライブだった。

「吉乃 COVER LIVE TOUR 2024 “爪痕”」
2024年8月14日(水)Zepp DiverCity
セットリスト
1. ボトム
2. 爆笑
3. ロストワンの慟哭
4. 花になって
5. ヴァンパイア
6. バレリーコ
7. 聖槍爆裂ボーイ
8. うつけ論争
9. 青のすみか
10. 狼煙
11. ドリームレス・ドリームス
12. 回る空うさぎ
13. 少女レイ
14. 夕景イエスタデイ
15. チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!
16. メルト
17. 誰かの心臓になれたなら
EN1. ヒバナ
EN2. DAYBREAK FRONTLINE
EN3. 君の神様になりたい。

Rolling Stone Japan 編集部

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