吉乃がZepp DiverCityに刻んだ「爪痕」、ボカロ文化への敬愛と歌い手としての誇り

吉乃

歌い手の吉乃が2024年8月14日(水)、15日(木)の2日間にわたり、東京Zepp DiverCityにてワンマンライブ「吉乃 COVER LIVE TOUR 2024 “爪痕”」東京公演を開催。会場に詰めかけた熱いファンの声に応えて、渾身の歌声を聴かせた。

2019年から歌ってみたの動画投稿で活動を開始、支持を拡大している吉乃。今年1月にチケット即完の初ライブを大成功させると、ポニーキャニオンよりメジャーデビューすることを発表。より注目を集める中で行われた今回のライブは、7月17日(水)名古屋・Zepp Nagoyaを皮切りに全国4カ所のZeppを回るカバーライブツアーのファイナル公演2Daysとして実施された。このレポートでは、東京公演初日の模様をお届けする。

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満員の場内が暗転してSEが深遠な音像から強いビートに変わると、フロアが紫色のペンライトに染まる。幕が左右に開き、ツアータイトル「爪痕」の文字が現れた。ステージの中央、円柱状に包まれたカーテンの中に吉乃の姿がうっすらと浮かび上がる。オープニング曲はボカロP・柊キライの「ボトム」。大きなアクションをシルエットで見せながら、言葉を畳みかけるように繰り出すと、総立ちの観客は映像と同じ真っ赤なペンライトを振りながら応える。「爆笑」で激しい4つ打ちのトラックに乗せて両手を広げて〈ワッハッハッハ〉と豪快な笑い声を響かせると、マイクを上に向けてシャウト。メタルチックなバンドサウンドによる「ロストワンの慟哭」では、学校を舞台にした歌詞に合わせてステージ背後の映像に文房具や教室の様子が描かれる。幾何学的なギターリフ、サーチライトが飛びかい、真っすぐな吉乃のボーカルに「Oi!Oi!」と腕を振り上げるオーディエンス。冒頭からものすごい熱量が会場に充満している。

曲間に訪れた静寂を破ったイントロに、どよめきが起こる。始まったのはボカロ曲以外からの選曲で緑黄色社会「花になって」。多くの観客が合唱しながら吉乃と曲の世界観を共有する。艶やかで力強い高音のロングトーン、歯切れよく明瞭な歌い回しが際立っていた。「Hey!Hey!」とレスポンスが起こった「ヴァンパイア」、映像にバレリーナのポーズでシルエットが映し出された「バレリーコ」と、ダンサブルな曲が続く。疾走するミクスチャーロック「聖槍爆裂ボーイ」では、早口でまくし立てるボーカルを、ビジョンに描かれるワードとライティングがさらに後押しする。ベースソロから突入した間奏では、しなやかなダンスで長いポニーテールを揺らしながら華麗に舞う吉乃に、大歓声が沸き起こった。ここまでの7曲をほぼノンストップで歌い上げ、MCへ。



「みなさんこんばんは、吉乃です!」の第一声に大歓声を受けると、ツアー各地でやってきたという恒例行事として「東京ー!」「ウォー!」とコール&レスポンス。ツアータイトルの“爪痕”について、「限りある私たちの命、今この瞬間も終わりに向かっている中、ボーカロイドという素晴らしい音楽がこの世界に存在している証を、今日みなさんがここに足を運んでくれた証を、私が今日ここに立った証を少しでも残したい。そんな思いを込めて“爪痕”と名付けました」と明かす。さらに“爪痕”という言葉への思い入れについて「昔、結構な大人数の前で“吉乃っていてもいなくても変わらないよね”って言われたことがありました。それを聞いた人たちは否定するわけでもなくただ笑っていて。私自身も、それを否定できなくてみんなと一緒に笑って流すことしかできなかった。でも本当はそれがすごく悲しくて。今思えば小さな出来事かもしれないが、世界から私が存在ごと拒絶された気がしました。実は今でも、あの頃書き残した言葉が手元に残っているんですけど、“私はこの先の人生でどれだけの爪痕を残せるだろう。どんな形でもいいから、1人でも多くの人に自分のことを覚えていてほしい”と書き記していたんです。そんな自分が大好きな歌で爪痕を残そうとここに立てていることをすごく嬉しく思います。当時の自分の思いを引き連れて、この後も引き続きライブをお楽しみください」と語った吉乃に、客席からは「一生ついていくぞー!」と頼もしい声が上がっていた。

Rolling Stone Japan 編集部

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