モー娘。小田さくら、櫻井梨央が2024年の目線で語る「モーニング娘。」の伝統と革新

「時代に合わせることも必要ですけど、守るべきことは続けていかないといけない」(櫻井)

―武道館公演でラストを飾ったのは「ここにいるぜぇ!」でした。僕としては懐かしい曲が聴けたというシンプルな喜びもありつつ、当時のメンバーがいない中でもモーニング娘。の伝統を受け継いで、今もモーニング娘。’24として表現している姿に感動してしまって。世界的に見ても、こういうスタイルで何十年も続いているグループってないじゃないですか。あらためてすごいグループだなと感じました。

小田 私は本物感をすごく大事にしています。でも6、7年前、夏(まゆみ:2023年に逝去)先生に観に来ていただいたコンサートで「ここにいるぜぇ!」をやったときに、「ブレイクスルーが足りない。『ここにいるぜぇ!』をこなしてるだけ」って言われて、そのときは「『ブレイクスルーが足りない』って何? どういうこと?」って思ったんですけど、「ここにいるぜぇ!」を噛み砕き直した今、当時の自分たちを見てみると、確かにブレイクスルーが足りないんですよね。よそのアイドルさんがカバーしてるのと大差ないって思われても仕方がないのかもしれないと思いました。

「LOVEマシーン」や「恋愛レボリューション21」をたくさんテレビでやってた昔は中高生のメンバーがメインでしたけど、それらの曲を私たちがやることで「カバー」って言われるのがすごく悔しかったです。「私たちだけが本物のモーニング娘。なのに!」って。でも、自分も最初は表面だけなぞってたんですよね。テレビで見ていたオリジナルの方々がどんなこだわりを持って踊っていたのか知らなかったわけで。だから「カバー」という指摘は自分としても分かるんです。先輩となった今、後輩たちに「もっとリズムを取って」とか「もっと必死になって」とか「上手にやらなくていいから頑張ってほしい」とか思うんですけど、それは最近すごく悩んでいるところでもあって。

―それはどういうことですか。

小田 例えば「上手にできているのに本物っぽくやらなきゃいけない理由を説明してください」って言われても、うまく説明できなくて。「それだとカバーって言われちゃうよ」っていうのは私の気持ちでしかないんです。だからそれは後輩に強要すべきことなのか、すごく悩んでます。ほかにも、私がずっと守ってきた礼儀やマナーも今の人から見たら堅苦しいし古臭いことなのかもしれない。「人に挨拶するときはバッグを肩から下ろしてね」と言っても、「バッグ持ったままの方が効率よくないですか?」って言われたら、「確かに……」って思ってしまうのと同じで、歴史のあるグループだからこそ、これからも守るものと時代に合わせて手放すべきものの選別をしなきゃいけないというのがたくさんあって、それが葛藤でもあるんです。

でも、昔からモーニング娘。を見てくださってる方から「やっぱりモーニング娘。ならではの変わらない良さがあるよね」と言われると、「手放さずにやっててよかったな」とは思う……けど、これからもそれを守って下に伝えていくべきなのかどうかがわからない。つんく♂さんは意外と「その時代に合った生き方をしてください」というタイプの方なんですけど、私は「これまで大切にしてきたものも守りたいけど……」みたいなところもあって、だから葛藤するんです。これはどこまで守るべきなんだろうって。

―確かに難しいですね。

小田 はい。一般社会でも上司と部下の間で起きる「挨拶する・挨拶しない」という話にしても、「挨拶されたら気持ちいいじゃん」って上司の方が思ってても、部下の子が気持ちいいって思わなかったら平行線になるじゃないですか。それと似たようなことがモーニング娘。にも起きてるのかもしれない。

―それはグループの歴史が長くなってきたことで考えるようになったことですか。

小田 はい。上の世代の方々はもっと厳しくて、私の代はまだ緩くなったほうなんです。昔のマネージャーさんは挨拶とかにとっても厳しくて。例えば、リハーサルで私がちょっとぼーっとしてて、名前を2回呼ばれたとします。そうすると、2回目に呼ばれた時点で「1回で返事しなさい」って注意されましたし、体重気にせずにお菓子を食べてたら取り上げられたりしたこともあります。でも、そういうことがグループの歴史が長くなるにつれて時代に合わせて全体的に少しずつ柔らかくなっていって。ただ、お外でお仕事するときは20年前のモーニング娘。を知ってる方が多いので、挨拶をすると「モーニング娘。さんはいつも敬語がしっかりされてますよね」とか、「挨拶がしっかりできますよね」っていうことを、私だけでなく、らいりーも言われます。

―今の話を聞いて、櫻井さんはどう感じますか。

櫻井 他のグループと比べて、モーニング娘。はちょっと違うなというのはすごく思います。それはもちろんいい意味で。時代に合わせることももちろん必要ですけど、守るべきことはちゃんと続けていかないといけないなって私は思います。過去に40人以上モーニング娘。のメンバーがいて、昔の曲をやる機会もすごく多いからこそ、「いつの時代もいいね」って言っていただけるように活動しないといけないなっていう意識は常にあるので、挨拶、礼儀、あと歴史へのリスペクトは忘れちゃいけないなって思いますし、そういう気持ちをメンバーみんな持って活動してるんじゃないかなって私は思います。

―昔の曲をパフォーマンスする上ではどんな気持ちでいますか。

櫻井 細かい振り付けがすごく多いんです。「LOVEマシーン」のイントロの振り付けは、右を向いたときは真顔で、左を向いたときは笑顔っていうのがあって、それは過去の振りのビデオだけをチェックしてもわからないんです。でも先輩方に直接聞けるから、グループがこれまで代々受け継いできたことを細かい点まで実践できるわけですし、私たちも今後モーニング娘。が続いていくためにも、オリジナルの振り付けを踏襲することはかなり気を付けていることのひとつです。

小田 最近はマイクを手に持ってると、手の動きは省略したりするんですけど、「これ、本当はこういう振り付けだから覚えといてね」って言ったりしてますね。

―資料だけでは伝わらない、口伝えによる技術があるんですね。

小田 そうなんです。でも、私たちしか知らないようなことも、ファンの方は当時テレビやライブでチェックしていて、「LOVEマシーン」では顔が向いてる方向で表情が違うことを知ってるんですよ。むしろ新しく入ってきたメンバーが知らなかったりするので。

―そうか、当時はまだ生まれていないメンバーもいますもんね。

小田 はい。この時代、頑張って探せば昔のコンテンツが見れる環境にかなり助けられてます。私は昔の曲をやるにあたって、リハーサルでやるのは振りを揃えることですけど、一人で練習するときはファンの方がこの曲に対して持っているイメージを守ること、再現することをすごく頑張ってます。

―ファンがその楽曲を愛していればいるほど、それがみなさんのパフォーマンスにも反映されていく。

小田 そうです。「I WISH」をやるときは、たとえば受験のときに聴いてた人がいるかもしれないなとか、この曲がどれほどの人の気持ちを救ってきたのか想像するだけで、曲に対して込められる気持ちや表現の丁寧さが変わってくるんですよ。



―櫻井さんはそういう歴史や伝統の重さみたいなものがプレッシャーになることはないですか。

櫻井 プレッシャーは感じてないんですが、歴史の重みは感じてると思います。今こうしてモーニング娘。にいるからこそ、今できるパフォーマンスを見ていただきたいです。それは歴史を背負ってるからこその意識だと思います。
小田 「大事なのは礼儀と挨拶です」っていうアイドルはこの時代に珍しいんだろうなと思います。

―あまり聞かないですよね。

小田 それもモーニング娘。だからなのかなって……ここまで来ると自分たちのグループ名なのに、自分のものじゃない感覚があって。私は「モーニング娘。」という看板を借りて磨いて、最後にそれを返却するっていうイメージです。自分の持ち物にしたら終わりだと思わない?

櫻井 確かに、そうですね。

小田 私はそんなことしないですけど、プライベートで自分がモーニング娘。だと言って周りからちやほやされたりするのは、ちょっとありえないと思ってしまいます。

―では、モーニング娘。は誰のものなんですか。

小田 初期メンバーさん……モーニング娘。の看板を大きくしてくださった時代の先輩方とつんく♂さんのもの、です。もし、らいりーが「小田さんのものですよ」って言ってくれたとしても、「いやいや、私のものじゃないよ」という意識です。現メンバーみんながそう言うと思いますし、誰も「モーニング娘。は私のものです」と言わないのが、今のモーニング娘。なんだと思います。でも一方で、世間で知られる「モー娘。」のイメージを作った先輩方は、「そんなことないよ。現役がやってくれてるからだよ」って言ってくださるので。

―そうですよね。

櫻井 でも、こういう話ができるのって歴史があるからですよね。

小田  すごいよね、ほんとに。

―去年の横アリ公演(『モーニング娘。’23 コンサートツアー秋「Neverending Shine Show」SPECIAL』)も震えましたよ。

小田 ですよね! 「すごいとこに立ってる!」って思いました。

櫻井 映像を観るたびに夢かと思います。

―「この『LOVEマシーン』は何?」って思いました。

小田 そうですよね。本当に「この『LOVEマシーン』は何?」ですよね。すごかった。自分が思ってた「LOVEマシーン」は全部不正解だ、みたいな気持ちで挑んでました。ここで先輩方がやっているものこそが「LOVEマシーン」だから、見るだけでは真似できないものをいかに吸収しようかって。「そうだ! We’re ALIVE」をやったときに、間奏のバンブーダンスのゾーンについて矢口(真里)さんが「てか、ずっと思ってたけど、このゾーンって何?」って言ったんですよ。「それ、ご本人も思ってたの!?」って。私たちも「これ、なんだろう?」って思ってたし、先輩方もこれだけ時間が経ってもまだそう思ってるんだって。矢口さんたちは「これが正解だ」って信じて踊ってるように見えてたけど、その面白みは私たちも感じてていいんだなと思いました。

―大袈裟な話ではなく、もはや伝統芸能ですよね。

小田 本当にそう思います。宝塚とか歌舞伎とか、そこまでになったら挨拶を守る意味も出てくるなってすごく思いますね。

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