マネスキン伝説を今こそ総括 大熱狂を巻き起こす4人の革新性、日本との特別な絆

マネスキン

8⽉17⽇・18日開催のサマーソニック2024にヘッドライナー出演するマネスキン(MÅNESKIN)が、昨年12月の来日公演の模様を収録した日本限定ライブアルバム『LIVE IN JAPAN - RUSH! WORLD TOUR -』をリリースした。ここ日本で大熱狂を巻き起こしてきた彼らの歩みを、本誌でたびたび取材・執筆してきた音楽ライター・新谷洋子が振り返る。


「“あの時サマソニでマネスキン観た?”と後々語られるような、ひょっとしたら伝説化する可能性を秘めたパフォーマンスを目撃したのかもしれない」と当時本誌のライブ・レポートに書いたものだが、今から思えば日本における彼らの伝説は実際、2022年のサマーソニックで始まったと言って過言ではない。そしてあれから2年が経ち、バンドとして全く異なる局面に立つマネスキンが、今度はヘッドライナーとして同じステージに帰って来る。今やこの世代では極めて希少な、フェスのヘッドライナーを務められるロックバンドとして。


2022年8月のサマーソニックにて(Photo by Mitch Ikeda)

初めて日本を訪れた2年前の彼らは、ならばどんな局面に立っていたのか? バンドにとって重要なターニングポイントとなった2021年5月のユーロヴィジョン・ソング・コンテスト優勝後、その勢いに乗って、同コンテストのエントリー曲「Zitti e Buoni」以下シングルを次々にヒットさせたバンドは、みるみるうちに世界規模でブレイク。低迷していたロック界に久しぶりに現れた救世主として、大きな驚きを伴いつつ歓迎されたものだ。「大きな驚き」というのは言うまでもなく、マネスキンが想定外のアウトサイダーだったからである。


2021年5月のユーロヴィジョン・ソング・コンテストにて

そう、高校時代にバンドを結成した彼らのホームタウンは、ロックとは縁遠いイタリアのローマ、歌詞にはイタリア語が混じり、ブレイクのきっかけはユーロヴィジョン。優勝してもたいてい人気は欧州圏内に限定されるのに、マネスキンはボーダーを突き抜けた。なぜって彼らの場合、グラマラスなファッションや派手なステージングといったビジュアル・インパクトに留まらず、表向きの物珍しさに依拠した好奇心を、真のファンダムに引き上げられるだけの力量を備えていた。それは曲の良さであり、メンバー全員のスター性とショウマンシップであり、卓越した演奏力/歌唱力であり、ゆえのライブ・パフォーマンスの素晴らしさであり、そのベースにあるのが下積み時代に励んだバスキングだ。

ダミアーノはいみじくも次のように当時を振り返って語っている。「僕らはなんとかして人々の目を引きたいという一心でライブをやっていた。そういう意味で、僕らはずっと同じような意識でライブ・パフォーマンスに臨んでいるとも言える。つまり会場が大きくなってスペースが広がったら、その分だけ自分も動いてやるぞ、最大限に利用してやるぞっていうのが基本方針。これは僕らの場合、あらゆることに該当するんじゃないかな。環境の変化に無意識のうちに適合するっていうか。だから今の僕らのライブ・パフォーマンスを形作っているもののうち、75%くらいはローマのストリートでのバスキングで培ったと言えるね」(2023年12月の本誌とのインタビューより)。


『Chosen』収録の人気曲「Beggin’」のパフォーマンス映像(2021年)

ローマのストリートで腕を磨いた4人は次いで、ロックバンドには敬遠されがちなオーディション番組(彼らの場合はイタリア版『Xファクター』)に出演して知名度を上げ、メジャー・レーベルと契約。さらに上を目指し、これまたロックと決して相性がいいとは言えないユーロヴィジョンに出場したことで、世界を照準に入れる。つまりバイアス無しに取り組んできたひとつひとつの試みを、ステップアップにつなげてきたわけだ。

しかも、マニアックなロック知識を備え、その様式美を随所に引き継ぎながらも、Z世代に属しクイア・アイデンティティのメンバーを含むマネスキンは、ロックを自分たちの形に合わせてアップデート。マッチョイズムを拒絶し、ジェンダー・フリュイディティとインクルーシヴィティを前面に押し出す。ポスト・ジャンル時代に適ったサウンド表現も然りで、デビューEP『Chosen』(2017年)にはエド・シーランやブラック・アイド・ピーズのカバーも収録。続いて1stアルバム『Il Ballo Della Vita』(2018年)では自分たちの雑食性をオリジナル曲に消化し、ラップと歌を交えるダミアーノのボーカル・スタイルにも合ったそのファンキーでメロディックな路線を、ヘヴィなミクスチャー・ロックやガレージ・ロックに昇華させたのが、2ndアルバム『Teatro d’Ira:Vol.1』(2021年)だった。


『Teatro d’Ira:Vol.1』収録の「I WANNA BE YOUR SLAVE」はバンド最大のアンセム、今年1月に「THE FIRST TAKE」でのパフォーマンスも公開

これが結果的に多くの人の耳を捉えたわけだが、一発屋で終わらないためにどうするのか? 彼らは試しにマックス・マーティンやジャスティン・トランターといったメインストリーム・ポップ界で活躍するプロデューサー/ソングライターたちとコラボしたりしながら(最初の成果が2022年春のシングル『SUPERMODEL』だった)、新たな可能性を模索し始めた。

そんな時期に、初めて日本を訪問。東京・豊洲PITでのウォームアップ・ギグを経て、8月20日の午後に東京会場のマリンステージに立ち、初っ端から『Zitti e Buoni』で突っ込んでいった僅か45分のショウで彼らは、一切説明を必要としないサウンドとヴィジョンのロックンロール・マジックで来日を待ちわびていた満場のオーディエンスを驚愕させ、バンド自身も初対面のオーディエンスの熱量に圧倒され(「日本人は大人しいんだって散々聞かされてきたけど、嘘っぱちじゃないか!」と驚くダミアーノのMCが思い出される)、最上級の相乗効果を生み出すことになった。


2022年8月、豊洲PITにて(Photo by Yoshie Tominaga)

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