フェアーグラウンド・アトラクションが語る日本での再出発、名作の誕生秘話、解散の真相

Photo by Genevieve Stevenson

88年にデビュー・シングルにして全英ナンバー・ワン・ヒットとなった「パーフェクト」とその曲を含む名作デビュー・アルバム『ファースト・キッス』(The First Of A Million Kisses:全英第2位)で一躍大人気を得ながら、2作目のアルバムを完成させることなく、90年初頭に解散と、短命に終わった4人組、フェアーグラウンド・アトラクション(Fairground Attraction)。看板歌手のエディ・リーダーと全曲の作詞作曲を手がけるマーク・ネヴィンはそれぞれシンガー・ソングライターとして活躍してきたが、ドラムズのロイ・ドッズ、ギタロン(メキシコのアコースティック・ベース)のサイモン・エドワーズと共に、35年もの年月を経て、このほど遂に再結成を果たした。

そんな彼らが再出発の場所に選んだのが、この日本だった。89年の初来日時に名古屋のクラブ・クアトロのこけら落としに出演した縁もあり、エディは東名阪3都市にあるクラブ・クアトロを特別な場所と呼ぶが、6月末から7月にかけて、その名古屋クアトロの開店35周年を記念する公演も含めた3都市のクアトロと東京でのコンサートホール(ヒューリックホール東京)での2公演の計5公演が組まれた日本ツアーは全公演が即完売でどの会場もぎっしり満員の大盛況となった。開演早々2曲目にしてエディが感極まり、マークも涙を流した初日から、ロイが病気で欠席するも観客と一体になって、その穴を埋めたホール公演の1日目、そして、またもやエディが何度も感極まった最終日まで、毎晩会場全体が感動に包まれる公演が行われた。

このインタビューは初日を終えた翌日、エディ・リーダーとマーク・ネヴィンに話を聞いたもので、この前編ではバンドの結成に至るまでと名作『ファースト・キッス』、そして解散の真相について、後編では再結成のいきさつと既に録音を終え、9月に発売が予定されている再結成アルバムについて語ってもらった。なお、アルバムに先駆け、来日に合わせて、日本のみの4曲入り12インチEP『Beautiful Happening』が発売された。


2024年6月27日、渋谷クラブクアトロにて(Photo by Masanori Doi)

―昨夜のライブではまさに「美しいことが起こっていた」わけですね。

マーク:確かに起こったね。

エディ:素晴らしい時間だったわ。

―日本はずっとあなたたちには特別な場所ですよね?

マーク:ああ、そうだね。

エディ:地球の反対側にある異なった世界で、物の見方も違うはずなのにね。私たちは西洋の考え方の、欧州人と呼ばれる人間だけど、ここに来てみると、普通の人たちの暮らしは同じだし、音楽でつながりが生まれるの。何故かはわからないけど……たぶん日本も英国も島国だからかもしれない。物の見方が違っても、心を通わせられるわ。

マーク:僕らも魚(料理)が好きだしね。

エディ:そうよ、私たちもみんな魚が大好きだわ。

―ええ、日本と英国には国民性に共通する点が幾つもありますね。さて、今日は『ファースト・キッス』と9月発売のニュー・アルバムの両方について聞かせてください。まずは若き日のことから。このバンドの始まりは、基本的には歌手を探していたソングライターと良い曲を探していた歌手の出会いと言っていいんでしょうね。

マーク:ああ、そうだ。

―マークはエディのような歌声を探し続けていたんですか?

マーク:昔のことを思い出してもらわないといけないね。ソングライティングについて、今とは異なる文化があった。思い出すのは、とても若い頃に音楽が大好きになって、デヴィッド・ボウイとかを聴いていたんだけど、曲名の下に常に名前があるのに気づいた。これは誰なんだろうと不思議に思って、やがてそれが曲を書いた人だと知った。

エディ:括弧のなかの名前ね。

マーク:歌手とは別の人が曲を書いていると知って、僕にもできると思ったんだ。歌をうまく歌えなくても、その男になればいい。それでソングライターになったんだけど、当時想像していたのは、ロンドンに出て行って、曲を書いて音楽出版社に送ると、「エルヴィスが君の曲を録音したよ」と連絡がある。そんなふうにいくんだとね。でも、音楽ビジネスが変わってしまってね。それで、僕が交わした最初の出版契約が、コンパクト・レコードだった。

―トット・テイラーのコンパクト・オーガニゼーションですね。

マーク:1曲50ポンドで5曲買ってくれたんだけど、彼がダメ出しををした6曲目が「パーフェクト」だったんだよ。

―トットは「パーフェクト」を50ポンドで買い上げる機会を逃した!

マーク:50ポンドを節約したかったんだね。



エディ:話に割り込んでいいかしら。私もバック・シンガーの仕事をしていた頃に、デモを送ったわ。彼らはワルツが好きじゃなくって、契約を見送ったの。

マーク:そんなわけで、僕には曲を聴き手に運んでくれる手段が必要だった。“ヴィークル”なんて表現を使うと、荷物を運ぶための車みたいけど。

エディ:私はトロッコなのよ。

マーク:つまり、僕の曲を歌ってくれる歌手が必要だったんだ。でも、僕はバンドを組もうとしていて、エディは常にソロ・アーティストを目指していたから、そこに衝突があった。僕らはお互いが欲しいと考えているものを持っていたから、重なる部分も大きかったんだけど、違いもあった。常に力を競う僕らの間には衝突もあったんだ。

エディ:そこにはもっと深いものがあったわ。自分の創造力を抑えようとすることになるから。私は新人歌手で曲を求めている。でも、まだそれほど自信を持っていなくても、ソングライターでもある。彼はソングライターで、そこの部分は自分がコントロールしようとしている。それで歌手が必要で、その曲がどう歌われるべきかをわかっているんだけど、私の方もどう歌うかのアイデアがある。その2人を一緒にしたら、当然衝突が起こる。

私はこのことを別の状況でも知っているの。私はトラッシュキャン・シナトラズのジョン・ダグラスと結婚している。あのバンドはジョンが曲を書いて、私の弟フランシスが歌うんだけど、私は第三者の傍観者として、彼らの衝突を目にしている。両方とも相手の必要とするものを持っているけど、どのように歌うかについては意見がぶつかる。でも、彼らはお互いへの礼儀も知っていて、どんなふうに歌いたいのか聞かせてくれと話し合えるのね。

20代の私は「あんたの言うことなんてクソくらえ! 自分の歌いたいように歌うだけよ」と言っただろうけど、今はマークが私の歌い方から何を聴き取っているのかにもっと興味を持つようになったわ。だから、今は色んなやり方を試している。

マーク:うん。どちらかのやり方だけでなく、両方のいいところを取り入れようとしている。

エディ:ここはあなたの言うようにやった方がいいわね。でも、そこは……とね。

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