ナイル・ロジャースのギター講座 稀代のヒットメーカーがストラトキャスターを愛する理由

ストラトキャスターに惚れ込んだ理由

─自分以外で最も偉大なストラトキャスターのプレイヤーを挙げるなら、誰がふさわしい?

ナイル:何百万といるよ。ジェフ・ベックと一緒にストラトキャスターを弾いた時は最高だった! あまり知られてないと思うけど、僕はジミ・ヘンドリックスと一緒にプレイしたこともあるんだ。僕はグリニッジ・ヴィレッジ出身で、ロウアー・マンハッタンで育った。僕がガキの頃にプレイしていたナイトクラブは、ヘンドリックスがレコーディング・スタジオにするために買い取って、エレクトリック・レディ・スタジオになった。シックの最初のシングルもそこでレコーディングしたし、ダフト・パンクもINXSもそこで録ったよ。君は僕のディスコグラフィーを知っているはずだ。ジェフ・ベック、ジミ・ヘンドリックスなど何百というギタリストたちと演奏してきたけど、その多くがストラトキャスターを弾いていたよ。


ナイル・ロジャースの名曲25選プレイリスト

─3ピックアップで表情豊かであると同時に、設計がシンプルで操作性がすぐれているところもストラトキャスターの魅力ですよね。あなた自身、このギターの使い方でこだわっていることはありますか?

ナイル:僕はほとんどネックピックアップ(フロントピックアップ)しか使わないんだ。あの温かみがあるサウンドが好きなんだけど、カッティングにも向いている。僕がヴォーン・ブラザーズやスティーヴィー・レイ・ヴォーン(以下、SRV)と共演したとき、あるいは(デヴィッド・ボウイの)『Let's Dance』でSRVと共演したとき、僕らは2人ともストラトキャスターを弾いていた。でも、僕のサウンドとSRVのサウンドは同じではない。SRVは超絶技巧の持ち主だっただけでなく、ヘンドリックスのように弦のチューニングを半音下げていたおかげでサウンドに温かみがあると同時に、ギターの切れ味も抜群だった。SRVが「Let's Dance」や「China Girl」でソロを弾いているとき……彼がアルバム『Let’s Dance』で参加したすべての曲で、僕のギターの明るい音が聞こえるけど、あれもネックピックアップで弾いた。「China Girl」での僕のプレイは、聴けばすぐにそれとわかるだろう。

そしてSRVのギターソロに入ると……ストラトキャスターは万能で多彩な表現ができるギターだから、同じギターを同じスタジオ内で2人が演奏しているのに──もちろん奏法とかは違うけど──同じパートでも「こっちが僕のストラトキャスター、こっちが彼のストラトキャスター」と違いがはっきりわかる。実はヴォーン・ブラザーズのアルバムでは、SRVとジミー・ヴォーンが僕のストラトキャスターを弾いている曲がいくつかあるんだ。彼らがそのサウンドを気に入ってね。僕のギターはとてもユニークなんだ。今まで弾いたどのストラトキャスターとも違う。一点もののように感じてきたよ。似たようなストラトキャスターに出会ったことがないんだ。今回Fenderが僕のシグネチャーモデルを作るまではね。



ナイルが実演を交えて『Let's Dance』制作エピソードを語った動画

─他にもきっと、こんなに長くストラトキャスターを使い続けてきた理由が何かありますよね。このギターのどんなところに惚れ込んできました? フォルムの美しさや、ボディの重量などもポイントになると思うのですが。

ナイル:確かに僕は重いギターが好きじゃないけど、やっぱりストラトキャスターの音の表現の広さが一番の理由だね。ストラトキャスターさえあれば、クラシックギター風の演奏をしてもそれなりの音が出せるし、ジャズとなれば難なく素晴らしいジャズサウンドが出せる。そしてもちろん、僕の名が広まったダンスミュージックにおいても活躍してくれる。つまりはギター演奏の依頼が入ったら、どんな内容でもこの1本で対応できるってこと。シンフォニーオーケストラだって問題ない。実際、これまで各国のシンフォニーオーケストラと演奏したことがあるけど、このストラトキャスターを使ったよ。


ナイル・ロジャース&シックとシンフォニーオーケストラの共演動画

─2024年の今も、H.E.R.からコリー・ウォンまで数多くのミュージシャンたちに使われているストラトキャスターですが。今でもこのギターがスタンダードとして愛され続けているポイントはどこにあると思います?

ナイル:君がその2人を挙げてくれたのはとても素晴らしいことだ! 去年コリーと一緒にギグをやったけど、彼はギターを弾くときに本当に深く掘り下げてプレイするので驚嘆したよ。一方で僕は、弦もピックも超ライトで、ファンク感やサウンドもコリーとは全然違うけど、彼と一緒にプレイするのは本当に楽しかった。僕のInstagramの投稿を見ると、彼が僕の指を見つめているのがわかるよ。なぜ僕のストラトキャスターの音は彼のとこんなに違うんだろうと不思議がっているんだ。少なくとも僕は、彼がそう考えていたんだと推察した。で、翌日に彼はこう投稿したんだ。「ナイルは6弦全部を押さえてるけど、3本の弦しか弾かない」と。つまり、彼はジャムりながら僕のスタイルを分析していたわけだ。僕はすぐコリーに「君が世界で最も好きなギタリストの一人になった」と伝えたよ。

僕たちはみんなストラトキャスターの音表現の広さに惹かれている。ギタリストの性格に合わせて“変わってくれる”ところにね。たとえばバディ・ガイの曲を聴くとバディにしか出せないサウンドが、僕の曲を聞くとみんなが「ナイルだな」って思ってくれる要素がそこにある。コリーが演奏すれば、彼独特のサウンドが聞ける。プリンスも以前僕のギターを弾いたことがあるけど、いかにも彼らしいスタイルでプリンスのサウンドを出していたよ。僕の経験から言えるのは、ストラトキャスターは恐らく世界で最も表現力のあるギターであるということ。単に僕がストラトキャスターを愛しているから言うわけじゃない。これまで数多くのギタリストとストラトキャスターでジャムしてきたけど、誰一人として同じ音じゃなかった。各自がそれぞれの音を出せていたんだ。

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