ノラ・ジョーンズ語録で辿る音楽的変遷 共同制作者とともに刷新してきた「彼女らしさ」

アリフ・マーディン、リー・アレキサンダーとの関係

デビュー作のビッグヒットを受け、2作目『Feels like Home』(2004年)もアリフ・マーディンがプロデュースすることとなった。CDの表4にはプロデュースド・バイ・アリフ・マーディン・アンド・ノラ・ジョーンズと記されている。このアルバムが完成したとき、「今回は前作よりあなた自身のプロデュースの割合が増えているようですが、アリフ・マーディンのスタンスは前作と違いますか?」と尋ねてみた。ノラの答えはこうだった。

「基本的には変わってない。アリフは今回も常に私の意見を尊重してくれた。というのも、私が頑固で、やりたくないことは絶対にやらない主義だから。前作と違うのは、前作には彼が関わっていない曲が5曲あったけど、今回は初めから一緒に仕事をしたってところ。彼は外から見ていてくれるんだけど、バンドだけだと距離を置いて作品を見られなかったりするので、とても助かる。いつかアリフの得意とする大がかりなアレンジを私の曲につけてもらって歌ってみたい。今はそういう気分じゃないけど、将来的にね」。




この2ndアルバムは、ノラとツアー・バンドのメンバーたち……リー・アレキサンダー、アダム・レヴィ、アンドリュー・ボーガー、ケヴィン・ブレイト、ダルー・オダと共にツアーのノリを反映させながら作ったもので、曲もこのメンバーたちが作っていた(後にこのバンドはハンサム・バンドと命名された)。とりわけノラの恋人でもあったベーシスト、リー・アレキサンダーの貢献度が高く、ここからのヒットシングル「Sunrise」もリーとノラの共作曲だ。曲書きだけでなく、リーはこのアルバムでサウンド・プロデュースも務めた。そう、アリフは外から全体を見る役割で、実際ノラと共にサウンドを決めていったのはリーだったのだ。

「リーとは過去3年間一緒に過ごして、今では一心同体と言えるぐらい仲がいい。私とは全然違うタイプの人だけど、それもいいのよね。自分と違う考えを持った人がそばにいてくれることはプラスになる。例えば作っている曲が煮詰まって、次にどう進めばいいか悩んでいるときに、彼が思わぬアイデアをくれたりする。彼なくしてこのアルバムはできなかった」

そんなリー・アレキサンダーは、ノラの3 rdアルバム『Not Too Late 』(2007年)で遂に単独プロデューサーとしてクレジットされた。ふたりはザ・クープ(鳥かごの意)というホーム・スタジオを作り、7曲を共作。その7曲含め、ノラは全13曲全てのソングライティングを行なっている。それまでは曲書きが得意じゃないと自認していたノラだったが、このアルバムでシンガー・ソングライターとして開花したのだ。曲作りはピアノではなくギターを弾いて行なったものが増えた。曲展開がそれ以前のものより少し複雑になっているものも多い。印象的にチェロを入れたりホーンを入れたりギター音を逆回転させて用いたりと、アレンジもそれ以前と比較してけっこう凝っていた。そんなこのアルバムの制作が終わって発売される数カ月前に、恩人アリフ・マーディンが74歳で世を去った。

「私とリーはアリフが亡くなる前にこのアルバムの録音をしていた。途中でアリフの意見を聞きたいと思うときもあったけど、今回は私たちだけで最後まで作ることが大事だと感じていたの。新しいことをいろいろ試したいタイミングだったからね」。

「最後にアリフと話せたのは亡くなる10日くらい前で、それは電話でだったけど、話せてよかった。その前には彼の自宅で一緒にランチもしたし。でも私のなかにあるアリフとの一番の思い出は、アップステート・ニューヨークで2ndアルバムを録っていたときのこと。長い一日の終りに彼がマティーニを作ってくれて、いろんな話を聞かせてくれたの。彼のマティーニは本当に美味しかった」。




リー・アレキサンダーはリトル・ウィリーズ(ノラ、リー、リチャード・ジュリアン、ジム・カンピロンゴ、ダン・リーサーで組まれたカントリー系バンド)の初作『The Little Willies』(2006年)のプロデュースも担当していたし、『Not Too Late』も全米・全英1位の成功を収めたので、理想的に見えるノラとのパートナーシップはそのまま長く続くかと思われた。がしかし、『Not Too Late』のツアーのあと、リーとノラは恋人関係を解消。リーがリーダーを務めていたハンサム・バンドもそのまま自然消滅となった(リーは夢だったレーサーを目指してノラのもとを去ったと言われていたが、2012年のリトル・ウィリーズの2作目『For the Good Times』に彼は参加し、プロデュースも再び担当。恋人関係を解消しても友人ではあり続けたようだ)。

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