明日の叙景インタビュー J-POPとブラックメタルのその先へ

4人のフェイバリット、次回作の展望

─そろそろ終わりの時間なので、あと2点ほど。最近好きで聴いている音楽について伺えますか。

等力:BAD HOPですね。先週行った東京ドームのラストライブ(2024年2月19日)が死ぬほど良くて。5万人のヒップホップファンが集まった瞬間がまず凄かったし、ライブも最高でした。それで、ここ10 年くらいの自分の音楽的嗜好とか、マインドセットの変化が起こったタイミングって何だったっけ、と思い返してみると、やっぱりヒップホップと共にあるんですね。KOHHが出てきた瞬間とか、歌詞でこうやって新しい表現ができるんだと思いましたし、Tohjiが浜崎あゆみのようなJ-POPを肯定する発言を繰り返していたからこそ、明日の叙景でJ-POPを肯定的に扱えるようになったのもあります。新しい表現というか、今の表現をやりたいという感覚は、やっぱりヒップホップから来てるんだなと思いましたね。



布:自分にとっては、2023年は日食なつこの年でしたね。以前、中村佳穂を聴き込んでいて、サブスクのおすすめも中村佳穂経由でいろいろ出てくる、それを聴こうという時期があったんです。そこで日食なつこに出会って、一発でハマっちゃって。全部の曲を聴きましたが、「エピゴウネ」「音楽のすゝめ」の2曲が特に刺さりましたね。それで、ライブのチケットも速攻で買って、ライブに行って度肝を抜かれて。という流れでした。



齊藤:ジェネラルなのとエクストリームなのでいうと、まずエクストリームはSleep Tokenですね。メタルとR&B的な感覚を両方ともちゃんと取り入れているバンドが、Issues以降はなかなかいなくて。そういうバンドが来たのが嬉しかったですね。アートワークも含めたトータルプロデュースも好きです。ジェネラルでは、TOMOOですね。去年の1月に「Cinderella」が出てからずっと聴いています。曲も素晴らしいんですけど、MVとかアートワークも含め、チームとして凄くノっている感じがあって強いなと思っています。




関:去年はLUNA SEAをめっちゃ聴いてました。『MOTHER』『STYLE』の再録盤が素晴らしくて。その発売前にあったライブにも行ったんですけど、これまではリアルタイムで体験できていなかったこともあって感動しましたね。昔の映像もよく観るんですけど、個々のスキルが高いことに加えて、バンドとして一体になったときの強さみたいなのが凄くて。そういうところに憧れています。



─ありがとうございます。それでは、次回作の話を。聞ける範囲で伺いたいです。

等力:予定は立っているわけではないんですけど、作ります。基本的には活動のペースに合わせていく感じで、締め切りがあるとやるタイプですので。イメージはぼんやりあるんですけど、具体的には決まってないですね。

布:「ブラックメタル? J-POP? いや、J-POPで」っていうのは…

等力:ああ、それはまだよくわかってないかな。自分の中で2つあるんですよ。「超J-POP作るぜ」という気持ちと、「いや、メタルっしょ!」みたいな気持ちがまだ混じってて。結局、「J-POP?それともブラックメタル?」という問いかけの答えを出せなくて、3rdアルバムもそうなってしまうのかもしれないと思いつつ、別にそれでもいいのかなと思ったりもします。J-POPとメタル、それぞれについての解像度が上がった状態でまたやります、みたいな。

─その二つはやっぱり大事な軸なのでしょうか。

等力:うーん、そうかもしれないですね。それと、「J-POP? それともブラックメタル?」とは言ったんですけど、次回作はもしかしたら「J-POP? それともメタル?」かもしれないです。J-POP or メタルか、それともJ-POPメタルか。やったことのないリズムをたくさんやりたいですね。面白いアルバムになると思います。


Photo by Jun Tsuneda

─音以外の部分についてはどうでしょう。『アイランド』は特に、このアートワークでこんな音をやるんだ、という衝撃を受けた人も多かったように思います。アニメやゲームから受けた影響についてもいろんなところで話されていますが、それがとても良いかたちで出ていました。

等力:これは今まで話したことなかったのですが、僕は自分のキャリアを考えるうえで何を参考にしているかというと、庵野秀明とか新海誠のようなアニメ映画監督が何歳のときに何を作ったのか凄い気にしてるんだな、ということに気付いたんですね。アルバムを作るという感覚が、アニメ映画作品を作るという感覚に近いように思っているというか。新海誠について言うと、たぶん『秒速5センチメートル』(2007年)が出たときに、高校の社会科の先生が、教え子が制作に関わったみたいな話で、DVDを学校で見せたんですよ。それでめちゃめちゃ食らって。これかもしれない、みたいなことを思った瞬間があったんですね。それ以来、新海誠に引っ張られている部分はやはりありますね。『君の名は。』(2016年)で売れたときも、自分の表現をやりきってあそこまで行けるんだみたいなことを思って。それと自分を重ねている部分は相当あることに気付きました。

なので、アニメを凄く観ているかというとそうでもないんですけど、方法論とかキャリア的な意味では、サブカルチャーのいろんなところを参考にしている、引用しているのは凄くあります。方法論とか、こういうふうにやっていくんだみたいなのも、アニメスタジオとか制作会社からインスピレーションを得ていることが多いなと思うので。お金の流れだったりとか、どういうふうに成り上がっていくのかみたいなのを参考にしています。だって、『エヴァンゲリオン』があれだけ人々に観られるんだよ、と思ってしまうんですよね。

布:自分の場合は、端的に言えば鬱アニメと鬱ゲーですね。『ドラッグ オン ドラグーン』に始まって、『エルフェンリート』ですよね。で、そこからいろいろこじれて、『無限のリヴァイアス』とか。暗黒小説というか、ノワール小説とか歴史小説みたいな、主人公が負けるのが確定している話とか多いじゃないですか。残酷なんだけど、俺はこういうことがやりたいんだとか、人間性を失ってしまうような部分もあるけど人間の善良さも信じたいよね、みたいなことを覗かせるものも多くて。制約がないぶん、人の本音が出やすい類の作品なのかなと思います。




─そういうところからの影響が歌詞にも出ているのでしょうか。

布:葛藤は描きますよね。良いことばかりにはしたくないし、悪いことばかりにもしたくないし。善良でありたいけど、間違うこともたくさんしてしまうし。間違ったことをしたからといってすぐ謝れるわけでもなくて、別の良いことをしていれば過去を清算されるかな、というふうにズルいことを思っちゃうみたいな。自分に対して甘い、自分を追い込めない。そういったところの弱さは常に描いています。

齊藤:今ハマっているというだけの話にはなりますが、最近のニチアサですね。歴史ある戦隊シリーズの中で、海外の最先端のブロックバスター映画のノウハウを取り入れながら作っていて、凄く面白いです。最近は脚本というものの面白さを感じられるようになってきて。言葉とか事象とか登場人物のリプライズが面白い。そういうリプライズが、ドラムのフレーズを作るときにも参考になるんですね。うまいリプライズは、忘れかけた頃に出てくる。

『アイランド』の曲で言うと、いったん印象付けさせて、それを忘れさせてから出すというのが、「遠雷と君」のダーンダン(音源では11秒〜)のところで。曲の前半1/3で2回出して、最後の最後にもう一回出すという。

─なるほど! そしてそのフレーズはタイトルの「遠雷」にも絡められますね。

等力:そうですね。単純なフレーズで。

齊藤:覚えさせることが必要というか、思い出せるくらいの印象の強さが必要ということで、ああいうフレーズになりました。

等力:BAD HOPもそうでしたね。8人いて、それぞれの曲はだいたい3人くらいで歌うんですけど、一番最初に歌ったメンバーが後半で合いの手みたいに出てくるんですね。こうやって忘れた頃にやってくる感じも大事ですよね。

齊藤:そうすると、人生に意味があると思えるというか。

等力:そうだよね。どこかで回収するみたいな。

布:面白いところだよね。いろんなことを繰り返してるんだけど、最後に「あ、これ繰り返しだよね」となるのは印象に残ったところだから、自分が取捨選択した結果なんだと思うんだよね。だから、「繰り返し来たね」と思えたものが、自分の人生にとって大事なもので、それが人生の正体なのかなというか。小さい頃に思ったことを、今の青年期にも考えて、老人になってからも「あ、そういえばこんなことあったよな」となる。それがたぶん、人生の本当の姿なんじゃないかなと思います。

等力:じゃあ、次のアルバムもそういう感じで!

一同:(笑)。

等力:まあ、アルバムの構成についてはそこまで意識しているわけじゃないんですけど。『アイランド』を作っていたときに印象的だったのが、「ドラムロール多くね?」みたいなことを言われて。本当か?と思って、どの曲にどういうフレーズが入っているか、どういう意味で入ってるかというのを表にしたんですね。そうすると、意外とどの曲も違う意味で入ってるし、その位置もアルバム通してみたら分散していました。そういうふうに、これでいいんだっけとなるたびに表にしていましたね。

布:疑問を疑問のままにしておかない。コミュニケーションとったよね。

等力:頑張りました。

─ありがとうございます。今後の展開もとても楽しみしています。

一同:ありがとうございました。




明日の叙景
『Live Album: Island in Full』
発売中
配信・購入:https://ultravybe.lnk.to/islandinfulllive


“Live Album: Island in Full” Release Concert
2024年4月6日(土)大阪・Yogibo HOLY MOUNTAIN
2024年4月29日(月・祝)東京・渋谷WWW X
東京公演ゲスト:kokeshi
公演詳細:https://www.creativeman.co.jp/event/asunojokei-island-in-full/

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