明日の叙景インタビュー J-POPとブラックメタルのその先へ

ライブでの伝え方、サウンドについて海外での学び

─『アイランド』を全曲演奏した昨年8月の代官山UNIT公演は素晴らしい内容で、今年3月に『Live Album: Island in Full』としてもリリースされます。これ以前はあまりライブが多くなかったですが、最近はかなり増えてきました。ライブに臨む姿勢は変わってきましたか。

等力:かなり変わったと思いますね。人に見せようという意識が、パフォーマンス的な部分でも音的な部分でも出てきたと思います。以前はあまり考えていなかったことを考えるようになりました。

布:お客さんからのアクションとリアクションを両方ちゃんと受け取りたいと思うようになりましたね。最初は、こっちがパフォーマンスすることでお客さんからのリアクションが返ってくる、ということだけを思っていたんですけど、実はまずお客さんからのアクションがあって、それによってこちらの気持ちの置きどころみたいなものも変わる。そうやって、作品の捉え方や音楽に向き合う姿勢も変わるのが面白いなと思うようになりました。人前で積極的にやるのも大事だなと感じましたね。

等力:ライブ活動を再開したのが1年前(2022年12月18日、渋谷CYCLONE)なんですけど、ライブ毎の動画を見返していくと、今のほうがちゃんと前を向いているんですね(笑)。前の動画を見ていると、自分は本当にギターの指板しか見ていなかったのですが、今はお客さんのほうを向くようになっている。我ながら良いことだなと思います。

齊藤:代官山UNITの動画を自分が編集していたんですけど、各メンバーの動きをずっと見ているわけですよ。良い動きを毎秒探していく。そうすると、自分も“見せる立場”にあることを意識せざるを得なくなるのはありましたね。



─ステージ上の服装についてのこだわりはありますか。音楽ジャンルとファッションの対応など、思想やスタンスみたいなことも示せる部分なわけで。Kornのジョナサン・デイヴィスがアディダスのジャージを着て、後続もそれを真似するみたいな。

等力:最近は「これ着たほうがいいよね」みたいなことも話しますね(笑)。その上で、それぞれのメンバーのキャラが立つようにしつつ、本人が着たいものを着る。自分がジャージを着ているのは、メタル然としてなくていいという感じですかね(笑)。もちろんKornみたいな先例もあるわけですが、いまジャージ着てメタルやるのも一周回っていいな、いい加減で、と思います。

布:自分たちがブラックメタルをやっているという意識はもはやないかもしれないですね。自分たちのプレイスタイルがブラックゲイズやポストブラックメタルと合うと思ったからやっていただけで、ジャンルについての思想や愛着みたいなものは乏しいかもしれないです。僕以外は。



─先ほど出た「細かい要素はメタルじゃないんだけど、音作りとかテクスチャーは凄くメタル」という話でいうと、『アイランド』から一気にブラックメタル的でないタイプの硬さ、豊かに響くメタルサウンドになったじゃないですか。そういうサウンド面でのリファレンスなどはありますか。

等力:サウンド的には、Svalbardの3ndアルバム(『When I Die, Will I Get Better?』2020年)が凄く良かったので、そのプロデュースを手掛けていたルイス・ジョーンズさんに(ミキシングエンジニアを)頼んだというのがまずあります。その際には、明るいサウンドにしたい、エナジーが伝わるものにしたいということを伝えていました。自分の感覚としては、できるだけ明るく、倍音豊かなものを作りたいというのもありました。それから「メタルの気持ちよさってあるよね」というのも意識しました。ギターはこういう音が気持ちいいよね、ベースやドラムもこういうのが気持ちいいよね、という音質的な心地よさはだいぶ意識しています。



─なるほど。やっぱりその、サウンド的な身体感覚とか根本的な嗜好みたいなところに、メタルが根付いているということでしょうか。

等力:そうですね。というか、根付かせました。2nd EP(2020年の『すべてか弱い願い』)を出した後に、自分はメタルの勉強が足りなかったなと思って。そこから、メタルのYouTuberをたくさん観たんですよ。そうすると、こういう音がいいよね、こういう音は悪いよねということを学習できるんですね。『アイランド』のサウンドについて、例えばDeftonesみたいだよねと言われることがあるんですが、それはYouTuberがDeftonesっぽいことをやっていてそれを真似したからこうなったのもあるんです。いくつか好きなYouTuberがいて、そこから「こういうのがメタルで良しとされるんだ」と意図的に学習した結果という。録音の仕方なども。英語の文章で上がっている動画をとにかくみんなで観る、そうやって音の価値観を向こうに合わせるということをやっていました。

齊藤:録音の話とはちょっと違うんですが、EU〜UKツアーに行ったときに、どこの会場もPAが良い、音が良いというのはありましたね。そこで感じたのが、言語の関係もあると思うんですけど、どこかにノウハウの壁が絶対にあるなということでした。


EU〜UKツアーでのライブ写真

Borisとの座談会でもその話が出てましたね。日本では全体のバランスを整えるのに対して、向こうのライブハウスは、ボーカルやギターといったリードパートを際立たせる傾向にあるという。

布:ライブハウスって、やっぱりボーカルとかリードギターみたいな旨みになる部分がよく聞こえてこないと、新規のお客さんは曲がわからないじゃないですか。例えば土日の8バンドくらい出るブッキングイベントをやったときに、知らないバンドも観てみようかなと思ったお客さんが「どういう曲やってるのかわからないな」となる感じでは、やっぱりよくないですよね。シャウトしてる音楽性だったら、シャウトボーカルの声がドンと出てこないといけない。ボーカルを出してくれるライブハウスが日本で多くないのは、良し悪しの問題というよりも、そうやって出さないのが常識になっているからなのだとも思います。

等力:なので、「海外ツアーに行くと現場が過酷」という話もよく聞くんですけど、自分の印象ではむしろストレスがなかったんですよね。今日の箱、機材めっちゃショボいじゃん…と思っても、実際に音を出したら超いいじゃん、みたいなことも多い。

布:ある種のサービス精神みたいなのが必要なのかもしれないですね。燻し銀な感じとか、エンジニア気質みたいなのよりも、その音楽を知らないお客さんが楽しめるようなわかりやすさが必要なんじゃないか。均一な音作りだと、曲を知っているファンからしたら「低音ガッツリ来た!最高!」となるのもわかるんですけど、知らない人には伝わらなかったりする。

 『アイランド』は、キャッチーめな曲が多い一方で、音数を意図的に少なくした部分もあって、ちょっと薄いかな、ローが足りないかなと思うこともあります。でも、音の壁にしちゃうとよくわからなくなっちゃうんですよね。CDで聴いていても、ライブでやっていても。音の隙間がちゃんとあって、メロディをはじめとした曲の旨みが伝わりやすいように引き算してあると、伝わりやすくなるのかなと思います。それは歌詞の作り方に関しても同様だったんだろうなと思いますね。

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