WACK流エモの文脈を踏まえたからこそ生まれた、現代R&Bの逸品。『Dress to Kill』の音楽性を一言で表すならそんな感じだろうか。各曲のスタイルはバラエティに富み、IDMやダブテクノ、ジャージークラブやオルタナティヴソウル、パンクがかったアイドルポップなど、様々なジャンルの要素が無造作に並んでいるようにも見える。しかし、それら全てに独特のささくれだった感傷が伴い、相通ずる雰囲気が漂っていることもあってか、アルバム全体には優れた統一感が生まれている。これを可能にしているのがWACKならではのコード感や歌声と、そこから立ち現れる固有のエモさだろう。ありそうでない配合を絶妙なバランスで成立させた、見事な仕上がりの作品だ。
『Dress to Kill』がもう一つ興味深いのは、以上のように攻めた装いをする一方で、アルバムの最後にはWACK系の初心に立ち返ったような楽曲が置かれていることだろう。バンドセットのスロウな「As you wish」も、伝統的なアイドルソングをクールなR&Bに落とし込んだような「Fleeting」も、ここまでで述べてきたような複雑なニュアンス表現を踏まえたうえで、理屈抜きに楽しめる仕上がりになっている。ブレイクコア的な「Dresscode」で幕を開け、IDMとダブテクノを融合した趣の「Obsession」なども織り交ぜつつ柔らかい雰囲気を増していき、最後には親しみやすいポップスに着地する構成は、ExWHYZというグループの音楽的な文脈をとてもよく示している。そうした多彩なサウンドに寄り添うボーカルの表現力も見事。様々なジャンルの音楽ファンに聴いてみてほしい、素晴らしいアルバムだ。