文藝天国が2度目のワンマンで表現した、五感がグルーヴする非日常

その後koとすみあいかが再登場し、ふたりが紅茶を楽しむティータイムへ。昼下がりのトーク番組を連想させるほどのユルさに少し拍子抜けしてしまったが、ここまでノーMCかつ怒涛の演出が続いただけに、張り詰めた緊張感が一気に和らいだ。

あいか「夏至も6月だし、冬至も12月で、季節って2カ月早く訪れるものだなと思ってるんです。そう考えると今はもう春が来ているなと思っています。今日は本当にありがとうございます!」。


Photo by たかつきあお

そして第二部「茶会」へ。ステージに3灯の間接照明が焚かれ、落ち着いた雰囲気のなか「秘密の茶会」がスタート。ハルの表情が一部にくらべ心なしからかくなっているように見えた。次曲「天使入門」ではサビですみあいかがウィンドチャイムを鳴らし、キラキラとした音像が広がる。

楽曲の展開や音の質感にマッチしたビデオワークは、その想像を超える完成度の高さだった。視覚表現の中心にあったのは、文字どおりステージ後方、真ん中に施された円形のデザインだったと思う。

たとえば12曲目に演奏された「マリアージュ」。サビ前までは円の周りを白い光がぐるぐると回っていたのが、サビに入りパッとMusic Filmに切り替わった。楽曲の世界観が広がり、没入感が一気に増す。どの曲でもそうだったのだが、どうも、視線がこの円に集中してしまうのである。ステージ演出はすべてすみあいかがipadに描いたものが形になっているということだが、空間デザインと映像を巧みに使った演出は見事だった。

次の「フィルムカメラ」では、これもMusic Filmに出演していた壊死ニキが客席から立ち上がって登場。ステージに上がるのではなく、ポエトリーリーディングとともに客席を走り回る。音楽ライブではなく、演劇の舞台を観にきたかのような錯覚に陥る。


Photo by たかつきあお

14曲目「緑地化計画」で、これまで会場に充満していた香りがフッと消え、空調の冷たい空気が吹いてきた。香りはステージのスモッグと一緒に発せられていたのだと思うのだが、スモッグがなくなったことも相まって、みずみずしく清涼感のある雰囲気に切り替わった。

映像も、これまで抽象的な図形などが流れることが多かったのが、電車の車窓から見たのどかな田園風景が流れたりと、明らかにこれまでとは違う雰囲気に。ストレートなギターロックが、いっそう爽やかに鳴らされた。

16曲目、「エア・ブラスト」は、恐らくこの日初めて同期を使わず、ハルとkoのアイコンタクトで演奏が始まった。ギターソロ終わりに、音源には入っていない電車の音が一瞬カットインされて最後のサビに向かっていった。第一部の「シュノーケル」でも、水の中のポコポコといった音がサンプリングされていたりと、こうした世界観の作り込みが、文藝天国の魅力である。もちろんそこに映像も絡んでくる。聴覚と視覚が、しっかりとグルーヴしていくのだ。

最後に鳴らされたのは「奇跡の再定義」。koがギターヘッドのブリッジ部分をひと掻きしたら、轟音アウトロ始まりの合図。同期の音源にもギターは何本か重なっているはずだが、それらがグシャッと潰れてしまうのではなく、フィードバックがどこまでも美しく響くシューゲ・ナンバーだ。

フェイドアウトで演奏が終わり、大量のスモッグがステージに残されたかと思えば、もうそこにメンバーはいなかった。本当に演奏していたのだろうかと思うほどにあっけなかった。「様々な感覚器官を通して日常に宿る“天国”をつくり続けている」という彼らの言葉を借りるならば、それはたしかにこの日の夜、目の前に起こっていたことだった。



文藝天国
2nd one-man live「アセンション」
2024年2月17日(土)日本橋三井ホール
開場 18:30/開演 19:00
TICKET SOLD OUT

■セットリスト
第一部 破壊
1. 尖ったナイフとテレキャスター
2. メタンハイドレート
3. 七階から目薬
4. 夢の香りのする朝に。
5. seifuku
6. プールサイドに花束を。
7. シュノーケル
8. 破壊的価値創造
9. ラスト・フライト(破壊的価値創造)

第二部 茶会
10. 秘密の茶会
11. 天使入門
12. マリアージュ
13. フィルムカメラ
14. おいしい涙
15. 緑地化計画
16. 宿命論とチューリップ
17. エア・ブラスト
18. 奇跡の再定義

文藝天国Official HP https://www.bungeitengoku.com/

Rolling Stone Japan 編集部

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