スティーヴ・レイシー来日公演を総括 軽やかさと親密なムード、表現力豊かなギターで魅了

Photo by Kazumichi Kokei

ソングライター/プロデューサー/ギタリストのスティーヴ・レイシー(Steve Lacy)の来日公演が2月14日・15日に立川ステージガーデン、16日にZepp Osaka Baysideで行われた。レイシーはジ・インターネットのメンバーで、ケンドリック・ラマーからヴァンパイア・ウィークエンドまで幅広いアーティストのプロデュース経験もあり、ソロとしての活躍も著しい才能溢れる1998年生まれのアーティストだ。

筆者が訪れた15日の気温は2月中旬としては7年ぶりに20℃を超えるという4月並みの暖かさだったため、立川に集った多国籍なオーディエンスは服装も多様であった。ダウンジャケットとノースリーブが混在する異様な温度感のフロアを初めに盛り上げたオープニングアクトはSTUTSだ。サックスとキーボードを従える3人編成のジャジーなセットで、後半にはラッパーのJJJがスペシャルゲストとして登場。STUTSがMPCでずっしりとした低音のドラムを打ち、場がそれに応える30分のパフォーマンスで会場は温まっていく。

転換後しばらくするとマック・デ・マルコの「Chamber of Reflection」をBGMにスティーヴ・レイシーのバンドが登場。2ndアルバム『Gemini Rights』の冒頭を飾る「Static」のメロウなイントロでスタートしたが、開始早々機材トラブルにより音が途切れてしまい、戸惑った観客の合唱だけが虚空に響く。そこにフードを被ったレイシーがフラっと現れる。背後のSFチックな映像と対照的なほどゆるい登場の仕方で、そのリラックスした姿にはもはや貫禄すら漂っていた。


Photo by Kazumichi Kokei


Photo by Kazumichi Kokei

2曲目はなんとレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン「Killing in the Name」のカバーで、先ほどのゆったりとした演奏が嘘だったのかと思うほどの激しいギタープレイで観客のド肝を撃ち抜いた。切れ味鋭くリフを刻んでいくトム・モレロというよりは、雄叫びを上げるようなジミ・ヘンドリックス的演奏スタイルで、引き延ばされたアウトロはレイシーの足元の機材でより一層サイケデリックに拡張させられていた。続く「Helmet」はそのムードを引き継いだ演奏で空間を塗りつぶす。「Sunshine」も余白多めなプロダクションを施された音源を変貌させたという点で共通していた。

一方、妹の部屋で録音したという2019年のデビューアルバム『Apollo XXI』からプレイされた「N Side」は、音源の宅録感を大きく越えたヘヴィでロックな演奏でオーディエンスを揺らす。「Lay Me Down」で6/8拍子のグルーヴィなアウトロをたっぷり浴びたあと、ジョー・パスのようなボサノヴァのギターを挟んでからワルツ調の「Mercury」に繋ぐことでムードを切り替える。あまりに気が利いた流れだ。そしてそのまま「Give You The World」の甘くドリーミーなムードへ。さらにその耽美なムードを引き継ぎ、それを深化させるように演奏されたのがザ・ビートルズ「I Want You (She's So Heavy)」のエンディング部分である。ジョン・レノンによる重厚感溢れる一曲で、執拗に繰り返されるブルーズ的なフレーズが強烈に頭にこびりつき、それ一色の世界に引きずり込まれていく。ムードは完全にレイシーの掌中にあった。

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