UMIがヒーリングと音楽を掛け合わせる思想的背景、BTS・Vや星野源からの学び

『talking to the wind』の制作背景、クィアとして思うこと

―『talking to the wind』は、本国ではインディーでのリリースとなりました。そもそもレコード会社を辞めてインディーで活動することを選んだのは、どういう想いからでしたか。

UMI:最初にレーベルとサインした時はチームが小さくて、一人ひとりのアーティストに集中できる状態だった。その時はみんなUMIの曲を聴いてくれていたし、UMIのことを見てくれていたんだけど、そのレーベルがなくなって、大きいレーベルに入ることになって。アメリカでは大きいレーベルに入ると、一人ひとりの関係がなくなっていく。UMIが「UMI」というより「たくさんいる中のひとりのアーティスト」という感じになって、「UMIの曲を本当に聴いてるのかな?」「UMIのショーに来てくれているのかな?」と思うようになった。それがUMIに合ってないな、このまま行ったらUMIの音楽に自分らしさがなくなっちゃうなと思ったから離れることにした。喧嘩したとかではなくて、互いに「UMIはここに合ってないんだね」という話で別れた感じ。(自分が)今の時代のアーティストでよかったと思う。今はアーティストもチョイスできるから、すごく感謝してる。UMIを自由にさせてくれたレーベルにも感謝してる。これからチームを広げる時は、ちゃんと人間関係を考えながらやっていきたいなと思う。それがないとUMIらしさがなくなると思うから。

―1対1の関係を大事にしながら過ごしたいし、聴いてくれる一人ひとりの心を癒したい、というUMIさんの想い自体や、その想いから作っている音楽が、守れなくなっちゃう状況は避けたいということですよね。

UMI:そうそうそう!



―『talking to the wind』は、用意されたドレスとかダイヤモンドではなく、UMIさんのクローゼットにあるTシャツやジーンズを着て鳴らしているような音だと思いました。レーベルを離れたあと、どんなことを考えて今作のサウンドにたどり着いたのでしょう。

UMI:大きな変化がある時は、めちゃくちゃ頭がごちゃごちゃする。レーベルを離れて、また心配することが多くなった。高校生のUMIが戻ってきた気がした! 毎日心配して、「どうしようどうしよう」って(笑)。そういう時に外へ行って、風とメディテーションしながらわかったことは、迷っていても大丈夫だということ。最後にどうなるかはわからなくても、今曲を作りたかったら曲を作って、今ツアーに行きたかったらツアーに行く。考えすぎないでちょっとずつやっていたら、最後にいいものがあるよって。それだけを信じて作ったEPだから、聴いてくれた人にも「迷っていても大丈夫だよ。迷ってる時は外に行ってちょっと座ってみたら」というメッセージを送ってるEPになってると思う。


Photo by Kana Tarumi

―「今」と向き合って、「今」を切り取ったものをそのまま音楽という形にしたのがこの4曲だということですよね。そうやって作っていった結果、できあがった楽曲を見つめると、この制作期間中にUMIさんはどういうサウンドを求めていたんだなと思いますか。

UMI:音より気持ちだと思う。UMIのサウンドって「R&B」とかも言われるけど、UMIは好きなものを作ることが好きだから。このEPを作って思ったことは、1つのサウンドだけを作らないということかな。ただ楽しんで、遊んで、色々やってみた曲を全部きゅって入れた感じ。すっごくパーソナルなEPだと思う。UMIの悩んでること、思ったこと、発見したことをそのまま言えた感じ。UMIの日記を開けて読んでる感じがする。9、10月頃に「あ、このシーズンは終わった。オーケー、EP出そう」とふと思って、それでEPを出すことにした。

―たとえば2曲目「happy im」はギターもリズムも、包み込んでくれるような声のハーモニーも、本当に心地よくて。これはどういう状況にいた時の自分がアウトプットされた曲だといえますか。

UMI:この曲は、一番パーソナルな曲だと思う。UMIの人生、悩みを曲にした感じ。1年前くらい、すっごく考えすぎている時期に書いた曲で。リレーションシップがいい方向に行ってるのに、なぜかわからないけど問題を作っちゃっている自分がいることに気づいた。それは、未来を考えすぎていた。「私はこの人と結婚したいの?」「この人と何がしたいの?」とか。UMIのリレーションシップは、プロデューサーとして一緒に音楽を作っている関係でもあるから、そんな関係は世界を見渡しても他にないと思う。だから「これ大丈夫なの?」「人にどう思われちゃうの?」とか、そういうことが頭の中でいっぱいいっぱいになっていた。でも考えすぎていると、自分も傷ついてるし、周りの人も傷つけているなと思って。だからやめたいなと思って、この曲を自分へのメッセージとして作った。これを聴くたびに、考えすぎないようにしようと思う。愛、幸せ、いいこととか、ただ受け入れようって。明日のこととか、1年後のこととかを考えるんじゃなくて、「今」と向き合うだけでいい。そういう感じで書いた曲。




―パートナー(V-Ron)の存在はUMIさんの音楽にとって大きな影響を与えているようですね。

UMI:近い人と一緒に音楽を作れることがすっごく楽しい。だって何をしていても、急に音楽を作りたくなったら作れるから。「happy im」も、2人でお家でリラックスしながら、UMIがお昼ご飯作っていて、Veraちゃん(V-Ron)が曲を作っていた時に、「あ、この曲いいじゃん、ボーカル足したい」って言ってできた。外でご飯を食べている時に「あ、今すぐ家帰って曲作らないと」って言って、家に帰ることもある。「SHOW ME OUT」とかそんな感じ。サンクスギヴィングに2人でフロリダへ行って、夜ご飯を食べてる時に、「Oh my gosh、曲を作りたい、今すぐホテルに帰って曲作ろう」って言ってできた。そういう関係がなかったらこのEPは絶対にできてないと思うし、次のアルバムの曲もできてないと思う。今のUMIには急に音楽を作りたくなるエネルギーがいっぱいあって、アイデアが浮かんだらすぐに出せる環境にいる。それは運命だと思う。UMIがコントロールして決めたことじゃないみたい。音楽のために、UMIのために、ハイヤーパワー(Higher Power)が決めた気がする! すごくレアな経験だと思うから本当に感謝してる。


Photo by Kana Tarumi

―そうやって作られた音が、聴き手に対して「今ある感情に集中すればいいんだよ」というメッセージとしてまっすぐ鳴り響いているし、考えても仕方のない未来のことや不安を取り除いてくれるものになっていると思います。もう1つ質問させてもらうと、UMIさんが音楽を作ったり表現をしたりする上で、クィアとしてのアイデンティティはどれくらい重要だと思っていますか。発信したいメッセージとして大きなものであると捉えているか、それとも、UMIという人間のさまざまのアイデンティティの中のひとつであるという感覚なのか。

UMI:両方だと思う。「私はクィアです」と主張しなくてもみんな感じていると思う。でもそれを隠さないのも大事だと思う。リレーションシップのことを聞かれたら言うことも大事。UMIにとって「クィア」とは、オープンネス(心を開くこと、寛容さ)だと思ってる。ジェンダーは関係ない。ただ愛は愛であるということ。それが一番大事。それはクィアじゃなくてもみんな感じられる気持ちだと思う。それこそがUMIのユニークな感じ方だと思うから、これからもそれをみんなとシェアしたい。みんなにも「私もこのままでいいんだな」と感じてもらえるようなアイデアや閃めきを与えられたらいいなと思う。

―とても素敵な考え方をシェアしてくれてありがとうございます。

UMI:聞いてくれてありがとう!

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