マライア・キャリー初来日30周年、今こそ学ぶディーヴァ伝説と「ファン第一の姿勢」

1993年のアーティスト写真(Photo by Daniela Federici)

 
世界的歌姫マライア・キャリー(Mariah Carey)が、プロモーションのため初来日してから今年10月でちょうど30年。同年リリースされた彼女の代表作『Music Box』30周年記念デラックス・エディションも先ごろ配信リリースされた(CD/アナログは来年2月23日に発売予定)。マライアの偉大さ、日本やアジア各国に与えた影響力を今こそ知るべく、ライター・辰巳JUNKに解説してもらった。

日本でもっとも聴かれている洋楽アーティストはマライア・キャリーかもしれない。なんといっても、彼女には「恋人たちのクリスマス(「All I Want For Christmas Is You」)」がある。冬になれば、子どもから大人まで耳にする、愛されしホリデーアンセムだ。



R&Bのスーパースター、マライアの影響力はワールドワイドだ。ビヨンセら後輩から尊敬を受けるのみならず、アリアナ・グランデやジャスティン・ビーバーとのコラボも行っている。アジアでの人気も高く、90年代に大旋風をまきおこした日本では「もっとも売れた洋楽アーティスト」の栄光を手にしている。影響力の大きさをあらわすように、楽曲カバーした邦楽アーティストは、クリスタル・ケイから怒髪天、なにわ男子の大橋和也まで、ジャンル問わず幅広い。韓国でも、K-POPグループのfromis_9が「恋人たちのクリスマス」、BTSが「Beautiful」のカバーを披露している。



樹立した記録は数しれない。1990年デビュー以来、アルバム総売上は2億枚以上。米ビルボードでのナンバーワンヒット獲得数は、女性として最高の19曲(全体でもビートルズに次ぐ歴代2位)。さらに、90年代から2020年代、つまり四年代連続で首位を獲得したアーティストは彼女だけだ。

マライアの偉大さをふりかえってみると、アジア人気がひとつの鍵になっている。今でも突出した人気を誇るフィリピンをふくめたアジア諸国といえば、米国とくらべてバラード好きと言われている。そして、21世紀を代表するバラード名手こそ、マライアなのだ。まず強力なのは、5オクターブにわたる「天使の歌声」。高音域を地声のような音質でくりだすベルティングの歌唱派として、セリーヌ・ディオン、ホイットニー・ヒューストンと並ぶ史上最高のシンガーの一人と評されている。くわえて、マライアを特別にしているのは、みずから作詞作曲をてがけるシンガーソングライターであること。完璧主義で知られる彼女は、バックボーカルによるハーモニーまで緻密に構成する。天性の歌声と緻密な構成力、このふたつが揃うことによって、言語の壁をこえる極上の聴き心地を完成させているのだ。

最大級のレガシーは、ヒップホップを21世紀のポップミュージックに組み込んだことにある。才能を発掘したレーベル社長と結婚し「音楽界のシンデレラ」として名声を得たマライアだが、90年代後半に別離して以降、ヒップホップ要素が濃い作風へと転換していった。たとえば、本人も最高傑作と語った6thアルバム『Butterfly』収録の「Honey」は、マライア流の「心地よさ」はそのまま、リスナーを踊らせる低音のヒップホップビートを響かせている。また、ジャーメイン・デュプリらMCとコラボした「It's Like That」では、見事なラップ調の歌唱を聴くことができる。これらの作風は、ヒップホップ文化が米国ほどねづいていなかったアジア諸国の音楽シーンにも変革をもたらした。バラード名手のスーパースターとして立場を確立していたマライアだからこそ、スムーズかつ大規模にラップミュージックを世界中に紹介できたのだ。




「R&Bやヒップホップといったアメリカのブラックミュージックが世界的影響力を持つにいたった理由のひとつが、マライア・キャリーなのです。これからも、たくさんのフィリピンのスター歌手がマライアを模範していくでしょう。K-POPにも、R&Bとヒップホップの影響がみてとれます。韓国にも台湾にも、ベルティング歌唱のディーヴァが存在している」(『Why Mariah Matters』アンドリュー・チャンのインタビューより

今や日本にも根づいたラップミュージック、あるいはラップ調歌唱も、マライアの影響なしに語れないかもしれない。

 
 
 
 

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