音楽オタクもShazamでも解析できない、17秒のカルト的謎ソングに迫る 米

「Everyone Knows That」と名付けられた、いまだに出所不明の楽曲(JO GTZ/ADOBE STOCK)

少々お時間ありますか? しばしお耳を拝借――ひょっとしたら、音声解析オタクを長年悩ませてきた疑問の答えをご存じじゃないかと思いまして。

【動画を見る】謎ソングの音声

Shazamなどのアプリが登場する以前、知らない曲を突き止める作業はチームワークで行われていた。そうした作業を世界規模でサポートした仲介役が、Web 2.0黎明期の2006年に開設されたソーシャルネットワークWatZatSongだ。気になって仕方ない曲をアップロードすると、みんなで寄ってたかって曲の出所を推測した。だが後世に残るもっとも有名な投稿がWatZatSongに登場したのは2021年。投稿者はハンドルネーム「carl92」というスペイン在住のユーザーだった。

投稿された音声ファイルには、ジャンルと歌詞の言語を示す「Pop-English」というラベルがついていた。carl92のコメントには曲が作られたと思われる時期として、「80年代中期、音質は悪い。(Everyone Knows That)」と書かれていた。「Everyone Knows That」とは曲の歌詞を指す。carl92は追加で投稿したコメントで、「DVDにバックアップしていた、かなり昔のファイルの中から見つけた」と説明している。「多分、音の取り込み方を練習していた時の残りものだと思う」。

ノイズ交じりの音源の尺はわずか17秒間。80年代のアップテンポなニューウェイブソングによくあるキャッチーなサウンドだが、歌詞の大半はほとんど聴き取れない。投稿された当初はほとんど注目されなかった。だが出所が分からぬまま数カ月が経過し、候補アーティストが次々振るい落とされていくうちに、カルト的な熱を帯びていった。それから2年、現在ではWatZatSong史上もっともコメントの多いスレッドとなり、仮説別に立ち上げられたsubredditの数は5000を超える。ユーザーは欠けている部分を想像で補ってリミックスやカバーを制作したり、AIで長尺バージョンを生成したりした。元ネタについてのデマもずいぶん広まった。だが、誰も「Everyone Knows That」を演奏したバンドを知らないという事実は変らなかった。

2023年6月には曲の手がかりを探すフォーラム「r/everyoneknowsthat」が立ち上げられた。そこでモデレーターを務めるredditorの1人、ハンドルネーム「cotton-underground」はローリングストーン誌との取材で、この時代にこうした謎に直面するのはもどかしいと語った。「なぜみんなここまで執着するのか? ひとつには、ものすごくキャッチーで聞き覚えがありそうな曲だから。もうひとつは謎に満ちているから。とくに2023年、何もかもデジタル化されて自由に音楽が聴ける時代に、追跡不可能と思われる曲があるという事実が、大勢の若者の関心を集めているんじゃないかな」。

手がかりのないこと自体が興味をそそる、と言うcotton-undergroundは、比較対象として別の曲を挙げた。巷では「Like the Wind」「The Most Mysterious Song on the Internet」と呼ばれている、話題の「謎音源」だ。こちらは80年代にドイツのラジオ局で流れていたのを録音したもので、やはりプロデューサーの正体を巡って何年も追跡が行われた(こうした遺物には、「lostwave」というタグが付けられることもある)。だがcotton-undergroundも指摘するように、「Like the Wind」の場合は元ネタとなった3分間の高音質フルバージョンが見つかった。一方現存する「Everyone Knows That」の断片は、はっきり聴き取れる歌詞の部分でさえも論議の的となり(「ulterior motives(裏の動機)」と聞こえると言う人もいれば、「fear of emotions(感情へのおそれ)」だという意見もある)。音源マニアも相当てこずっている。音源のアップロード後にWatZatSongから姿を消したcarl92が、質の悪いいたずらを仕掛けたのだという意見もある。

実際のところ、「Everyone Knows That」と「The Most Mysterious Song on the Internet」はどちらが追跡しにくいかという問題を巡って意見が衝突し、先の見えない追跡をテーマにしたミームも生まれた――かと思えば、一時期r/everyoneknowsthatでも意見の対立が激しさを増し、ネットあらしやハラスメントの応酬が繰り広げられた。

Akiko Kato

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