ニック・ロウ物語 パブロックの先駆者が振り返る「長く奇妙で最高のキャリア」

ニック・ロウ、2018年撮影(Photo by JULIAN BROAD FOR ROLLING STONE)

 
ニック・ロウ(Nick Lowe)、4年ぶりの来日公演が10月4日(水)大阪、6日(金)・7日(土)東京、9日(月・祝)横浜のビルボードライブで開催される。パブロックの第一人者としてパンク・ロックの成立に一役買い、エルヴィス・コステロをプロデュースし、ジョニー・キャッシュと充実した時間を過ごした彼の数奇なキャリアを、本人や関係者の証言も交えつつ振り返る。(※US版記事:2018年11月初出)

1990年1月、41回目の誕生日まであと数カ月というところで、ニック・ロウは、インタビューを受けるべくBBCの撮影班をロンドン郊外のテラスハウスに迎え入れた。ロウには宣伝すべきニュー・アルバム『Party of One』があったが、彼には音楽業界での20年ものキャリアがあった。まずはブリンズリー・シュウォーツ。アメリカーナの影響をはっきりと打ち出していたが、英国外では(さらに言えば、英国内でも)インパクトを残すことはできずに終わった。そして、スティッフ・レコーズという支離滅裂なインディー・レーベルのハウス・プロデューサー。そこでロウは、英国初のパンク・シングルとして広く知られるダムド「New Rose」をプロデュースし、また、エルヴィス・コステロとの実りあるコラボレーションを開始。コステロの最初の5枚のアルバムをプロデュースし、傑作を連発している。ロウが書いたナンバー「(What’s So Funny ‘Bout)Peace, Love and Understanding」はコステロの最も印象深い曲の一つとなり、さらには、ロウ自身もパンク/ニュー・ウェイヴの勃興と共にソロ活動をスタートさせており、「Cruel to Be Kind」「So It Goes」「I Love the Sound of Breaking Glass」といった彼の代表曲は今なおこの時代の不動のクラシックであり続けている。




だが、『Party of One』の頃には、ロウの曲がチャートに顔を出さなくなって5年が過ぎていた。彼は数年前に酒を断っていたが、すぐに再び飲み始めており、また、シンガーソングライターにして“ナッシュヴィル王室家”の姫(ジューン・カーター・キャッシュの実娘、すなわちジョニー・キャッシュの継娘)であったカーリーン・カーターとの10年に及ぶ結婚生活も、その正式な破綻が近づいていた。BBCの映像では、ロウは、顔に浮腫みややつれが見られ、40歳より老けて見えた。身に纏った燻んだ色のツィード・ジャケットは、定年が近い全寮制学校の校長から盗んだかのような代物だった。そのふわふわしたモップ頭には既に白いものが混じり始めていた。

ギターを爪弾きながら、ロウは、恐るべき義父についてや、若い頃にベイ・シティ・ローラーズのことを歌ったノベルティ・ソングを書いた試みといった、笑える自虐的な話をしてくれた。その後、話は年齢のことに及んだ。「40歳になって(この活動を)まだやってるなんて思ってもみなかったよ」彼は認めた。「ありえないね」。彼は煙草を深く吸い込み、突然物思いに耽り、視線を脇に逸らせた。あたかも、秘密の計画を明かすかどうか逡巡しているかのように。そして彼は微笑み、その瞳はいたずらっぽく輝いた。「でも実際は、そう、良くなっているとようやく思えるようになったよ……60歳になったら本当に良くなると思う。実際60歳になったら、とても素敵に見えるはずさ。それが一番大切なことだ。60歳になったら、血気盛んに見えると思う。さらには、僕の声も素晴らしい響きになっていくと思うよ」。

また新たなギャグが始まったかのように聞こえた。ロウは明らかにつまらなそうな顔をしていた。そして、インタビューでは、彼の作詞アプローチの特徴でもある、英国ならではの冷笑的な皮肉へと大きく傾きながら、もったいぶったかのような口ぶりで自身の作品に関する話を慎重に避けようとした。柄にもない尊大な態度がオチへと繋がるに違いない。

だが、そうではなかった。ロウが目を細めたのは煙のせいだった。彼は冗談を言っているのではなかった。彼は予測を立てていたのだ。「60歳になったら作曲のやり方が分かるようになるんだろう。ようやく上達し始めたところさ」。彼の笑顔は消えており、発言を強調すべく煙草で宙に向かってジャブを打った。きっと自分に言い聞かせていたに違いない。

今から20年後のことを彼は明言した。「僕はキテいると思うよ。本当にマジでキテいるはずさ」。

Translated by Masao Ishikawa

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE