全米で賛否両論の映画、Qアノン陰謀論の宣伝ではないと監督が反論

『Sound of Freedom』のプレミア上映に出席したアレハンドロ・モンテヴェルデ監督(FRED HAYES/GETTY IMAGES/ANGEL STUDIOS)

映画『Sound of Freedom』(原題)の米・公開から1カ月以上が経過し、熱狂、批判、陰謀論が波のように押し寄せている中、アレハンドロ・モンテヴェルデ監督が映画の大ヒットについて言及し、児童人身売買の描写について弁明した。人身売買反対を訴える主要団体は、無責任に騒ぎ立てた映画が実際の被害者に害を及ぼしていると猛反発。一方でカルチャー戦争に身を捧げる極右派、とりわけQアノン一派は待ってましたとばかりに、ありもしないエリート秘密結社が無垢な若者を食い物にしているという陰謀論で集団パニックを扇動し続けている。

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モンテヴェルデ監督はロサンゼルスタイムズ紙との最新インタビューで、低予算映画の爆発的ヒット――ここまでの興行収入は1億6000万ドル以上――は「完全に想定外だった」と明かした。「この作品が日の目を見ることはないだろうと思っていた」と監督。「それで結局、自分の意見は手放した。一銭たりとも儲けるつもりはない」(ローリングストーン誌はモンテヴェルデ監督と映画の製作会社Angel Studiosにコメントを求めたが、返答は得られなかった)。いずれにしても、映画を見た人々が人身売買撲滅に動き出しているのは心強い、と監督は述べた。「認知が高まれば高まるほど、結果オーライだ」と、質問の趣旨から逸れつつも監督は主張した。

世間を騒がせている反人身売買活動家、ティム・バラード氏の活動をフィクションとして描いた『Sound of Freedom』を、極右陰謀論者が大歓迎していることはモンテヴェルデ監督も認識している。「周りで起きていることは、どれも実に奇妙な感じがする」。人身売買反対を掲げるNPO団体「Operation Underground Railroad(O.U.R.)」の創設者であるバラード氏は、同団体が海外でゲリラ活動を行って小児性愛者や性的人身売買ネットワークを摘出した、という誤った情報を流していることでも有名だが、内部の揉め事が原因で、待望の映画公開を待たずして組織を追われている。O.U.R. 退任や過去の誤った主張について、いまのところバラード氏本人は公の場で発言していない。ローリングストーン誌のコメント取材申請にもすぐに返答はなかった。

当初モンテヴェルデ監督は、脚本のリサーチとしてバラード氏に話を聞いたそうだが、やがて同氏の(誇張された)半生に方向転換して描くべきだと感じたそうだ。そうした過程で次第に同氏が神格化されていき、結果として『Sound of Freedom』では武勇伝がさらに誇張され、政府や軍隊の指示に背いて子どもたちを救う「世直し救世主」として描かれている。

Akiko Kato

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