追悼ロビー・ロバートソン ザ・バンドやディランとの秘話、音楽的成熟の裏側を明かす

ボブ・ディランとの関係、「音楽的成熟」の裏側

―あなたが多くの楽曲で使用した、聖書に書かれているかのような、威厳のある、同時代的ではない言語、そして、そこに加えていったイディオム。それはどこから生まれたものですか?

RR:優れたストーリーテリングが大好きなんだ。聖書に書かれた多くの物語はとても素晴らしいと思うよ。そして、時に特定の方向に進むことで、それはより強い感情を帯びる。そうした場所から、聖書のような環境から生まれてきた、「Daniel and the Sacred Harp」(『ステージ・フライト』収録)のような曲を書くたびに、とてもいい感じになったんだ。それに、聖書はこれまでに語られた最高の物語の一つだと思うよ。実際のところ、かなりのベストセラーさ。しばしばそこに手を伸ばし、ついついインスピレーションを引き出してしまうんだ。

―あなたは『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』でボブ・ディランと共演し、彼がタイプライターで歌詞を綴っているのを目の当たりにします。そうした境遇に置かれた多くの人は「ボブ・ディランがそこにいる。代わりに自分が曲を書くというのか?」と言うでしょう。それはあなたを反対方向へと押しやってしまったように思えるのですが。

RR:うーん。威圧感のようなものは全く無かったよ。僕らはクラブハウスにいて、みんなそれぞれやることをやって、時に寛いで、楽しい時間を過ごしていた、といった感じだった。その一方で、僕らがクラブハウスを借りたのは、ザ・バンドで1stアルバムを作るためだった。だから僕らがそこに集結したんだ。いきなりボブがいわゆる“楽隊車”に乗り込んできたんだけど、彼が僕らと一緒につるみたいと思ってくれたことは嬉しかった。タイミング的にも素晴らしかったし、みんなそこにいられて幸せだったよ。それは儀式のようなものになっていった。毎朝起きて薪を割る人もいれば、曲を書く人もいたんだ。

―にもかかわらず、あなたは制作途中の楽曲についてボブに相談することは決してありませんでした。彼はそれらの曲を完成してから聴いたという印象です。それはどうしてですか?

RR:なぜなら僕の中に誇るべきものがあるからだ。ボブと僕らのマネージャー、アルバート・グロスマン、そしてその他の人たちにも、僕は「彼らは僕らを知っていると思っている。彼らは僕らのやることを知っていると思っている。彼らは僕らのことを分かっていない」といった感情を抱いていたんだ。近しい人と何かをやって、さらには、彼らを驚かせ、多少を感動を与えることができるという発想? いい感じじゃないか。うん。

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―ザ・バンドのデビュー作が世に出た頃のミュージシャンたちは、例えばクリームなどと比較して、その抑制や威厳、そして曲に焦点を当てたアプローチのことを、極めて啓示的なものだと口を揃えて言います。それは劇的な変化であり、驚くべき影響力を示しました。あなたは、自分たちがやっていたことが本質的に正反対であったことを自覚していましたか?

RR:こうしたものには何か無意識のものが働いているのかもしれないね。追随者にはなりたくなくて、パレードの先頭に立ちたいもの。だから、僕らの誰もが一度ならず「違っているからこれをやろう」って言っているんだ。何度もね。実際に起こっていたのは、僕らが山の中にいて、雰囲気があって、あのクラブハウスにいて、もしも地下室で大音量で演奏すると、耳を痛めるし、シンガーの声も聴こえない、ということだった。だから、僕らは場所やその時の状況に合わせたんだ。それに、僕らが『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』を完成させた時は、他人がこれをどう思うのか想像も付かなかったんだ。自分たちがどう思っているかは分かっていたけど、それがどう受け取られるかを知るには外の世界との繋がりがなかったんだ。だから、あれら全ての反応は、僕らには驚くべきものだった。分かっていたのは、僕らが既に6〜7年も一緒にいて、その後にあのレコード作ったこと。ずっと活動してきて、それなりの地位を得て、音楽的にも見え透いたことをしなくていいところまで成長した。それが分かっていたんだ。

―その主な理由は、何年も続いたライブ活動で即興演奏を出し尽くし、その結果、ロック・バンドが1969年に長尺ソロや表面的な派手さで何かを示した手法によって表現するものはもう何も無くなった、ということでしょうか?

RR:実際には成熟だよね。音楽的な成熟が始まっていたんだ。あの時点の僕は、あらゆるものを、いわゆる(フルテンを超えて)“目盛11”で鳴らすことに時間を費やしていた(笑)。そういった情熱や興奮を素晴らしいと思っていたよ。でも、繊細さについては学んだことがなかったし、リズムでの感情表現、さらには、隙間というものにおける感情表現も学んでいなかった。そうした境地に達する時、自信や成熟といったもの、あるいは、それらを与えるものはなんであれ、手に入れた時、そこは大いに満足を得られる場所となるんだ。それはエリック・クラプトンが言及していた「おぉ神よ、あなたはそうなさる。実に繊細なやり方で。そしてあんなにもパワーを感じる。おぉ」ということだ。これぞまさに僕らが成長して辿り着いた場所ということなんだ。



―鋭角的な単音ソロと比べると、あなたのサウンドの大部分はコードに沿ったフレーズが占めていますが、それはスティーヴ・クロッパーやポップス・ステイプルズといった人たちからの影響なのでしょうか?

RR:叫び声を上げて12フレット以上で演奏しながら出て来る必要のない地位に上り詰めるということ? 君が言及した人たちに関しては、「おぉ、経験豊富な人がいる」と思ったものだ。というのも、スティーヴ・クロッパーがオーティス・レディングのレコードで演奏しているのを聴いたからね。素晴らしかった。あるいはサム&デイヴ。素晴らしい演奏だ。そして僕はポップ・ステイプルズのシンプルな伴奏が大好きだった。そのことを本当に理解していると僕が思ったメジャー・アーティストは、カーティス・メイフィールドだった。そう、彼にも影響を受けたよ。彼がギターでやったことは、思うに「うぁ、あの男は何にも示そうとはしていない。ただそこにある」ということだった。僕はそれに魅了されたんだ。僕はこうした新たな要素を理解し、そこへと辿り着き、それを実行したんだ。

Translated by Masao Ishikawa

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