〈Gacha Pop〉がJ-POPを再定義する? 日本の音楽を海外に発信するための新たな動き

 
選曲の基準「日本が誇るべき独特の感性を海外に紹介したい」

〈Gacha Pop〉のプレイリストの中でも6月中旬現在、とりわけパフォーマンスが良い楽曲はimase「NIGHT DANCER」だという。2022年から2023年にかけ、Stray KidsやTREASUREといった人気K-POPアーティストのダンスチャレンジ動画に多く使用され、世界中に雪だるま式に広がっていった楽曲だ。つい先日、JUNG KOOK(BTS)の歌唱動画が話題になったことも記憶に新しい。

「『NIGHT DANCER』のヒットにより、imaseのマンスリーリスナーは540万を超え、国内アーティストで比較すると藤井 風、YOASOBI、米津玄師、RADWIMPSに続く5位にという位置付けになるかと思います」




「NIGHT DANCER」は日本から韓国に飛び火し、爆発的にバズった。〈Gacha Pop〉のプレイリストに入っているあいみょん「愛を伝えたいだとか」は2017年にリリースされた楽曲だが、ここ最近韓国を中心に人気が再燃しており、「NIGHT DANCER」同様、韓国のリスナーがヒットを後押しした形だ。

「『死ぬのがいいわ』をはじめ、少し前はタイをはじめとする東南アジア発のヒットが多かった。しかし最近は『NIGHT DANCER』『愛を伝えたいだとか』など、韓国から動画投稿などを絡めて広がっていくケースがとても増えています。韓国から見た日本のポップカルチャーへの憧れ、親和性が強まっているのではないでしょうか」

海外からの逆輸入パターンというと、新しい学校のリーダーズのケースも挙げられる。2021年にアジアのカルチャーを世界に発信するレーベル・88risingから全世界デビュー。海外での地盤が固まっていく中で、2020年にリリースした「オトナブルー」が2023年に入ってからTikTokを基点にバズり、現在もストリーミングの再生回数は上昇し続けている。

「最近の傾向として『オトナブルー』のように、日本語の曲にもかかわらず、海外でも支持されるケースが増えています。リーダーズは衣装がセーラー服で、楽曲は昭和歌謡テイストが強い。日本のポップカルチャーの新しいアイコンとして受け止められているのだと思います。88risingがレーベル所属のリーダーズだけでなく、YOASOBI、XGといった日本のアーティストを積極的に主催フェスに出している動きもストリーミングの動きとリンクしているように思います」




放送中の人気アニメ『推しの子』のオープニング主題歌であるYOASOBIの「アイドル」は6月10日付の米ビルボード・グローバル・チャート「Global Excl. U.S.」で日本語楽曲史上初の1位を獲得。日本の楽曲として、これまでにない規模感のヒットを記録している。2022年12月には88rising主催のフェス『Head In The Clouds』のインドネシア・ジャカルタ公演とフィリピン・マニラ公演に出演し、この8月にもアメリカ・ロサンゼルスで開催される同フェスに出演する。新型コロナウイルスの規制が解かれ、国内外のリアルライブが再び盛り上がりを見せている中で、海外でのライブがさらに「アイドル」の革命的状況を後追ししそうだ。

「日本の楽曲はコード進行や構成の妙、演奏力など、素晴らしい独自性がある」と芦澤氏。

「例えばYOASOBIの『アイドル』は、K-POPとはまた違う意味で目まぐるしく場面が変わっていくような構成があります。ボカロ的な変則メロディ進行は海外のどのコンテンツにも似ていない。そういった日本が誇るべき独特の感性を海外に紹介したいという思いもあります」



今後、ヒットが期待できそうなのが、米津玄師が『FINAL FANTASY XVI』テーマソングとして書き下ろした新曲「月を見ていた」だ。

「『月を見ていた』は、日本のクールなカルチャーとしてゲームコンテンツと一緒に盛り上がっていく曲になると思います。海外で非常に人気の高い『FINAL FANTASY』のプレイリストはもちろんのこと、〈Gacha Pop〉との相乗も視野に入れ、曲が発見されるチャンスを拡大したいと思っています」



さらに〈Gacha Pop〉のプレイリストを掘り下げると、BABYMETAL、CHAI、おとぼけビ~バ~、春ねむりなど海外ツアーで実力が認められてきたアーティストに加え、シンガーソングライターのカネコアヤノ、ジャズをルーツにもつ松木美定、DTMユニットのパソコン音楽クラブ、ダンス&ボーカルグループの&TEAMやTravis Japanなど幅広く収録されている。

「〈Gacha Pop〉にとって大事なのは、『こうでなければならない』という枠組みを作らないということ。そこに正解も不正解もなく、逆に言えば聴く人全員が等しく満足するものにはならない。時代も国境もジャンルも超えるというコンセプトが根底にあり、ガチャガチャのように間口は広くフレキシブルでありたいので、日本のポップカルチャーを世界に発信するという定義にハマっていれば、ある意味何でもありだと思っています」





〈Gacha Pop〉が国内でも急速に支持されている状況を、芦澤氏はこう分析する。

「〈Gacha Pop〉は海外に向けたプレイリストなので、国内で聴かれるようになるには少し時間がかかると思っていました。先に海外で実績を作って、それを逆輸入的に日本に持ってこようと考えていたのですが、国内で聴かれるようになるのがあまりにも速くて驚いています。K-POPが世界規模で成功しているからこそ、日本の音楽がまだそこまで届いていないことへの歯がゆさを感じていた方も多かったのかもしれません。

でも、こうして世界から求められる日本の楽曲を集めたプレイリストが生まれたことで、新しい視点が開いた。『死ぬのがいいわ』『NIGHT DANCER』といった日本の楽曲がストリーミング発のバイラルヒットにより世界中で聴かれている現象に対して、多くの人が興味を持っていたということを示しているのかもしれません。

『鬼滅の刃』をはじめ、人気アニメ作品の主題歌になれば海外でも聴かれるという状況が定着し、アニメタイアップを積極的に取りに行くという戦略は引き続き有効だと思います。しかし、それ以外のヒット事例が増えたことで、固定観念に縛られない海外視点の価値観、先程の例えで言うと“カリフォルニアロール現象”が日本人からすると逆に新鮮に見えて、『海外でヒットしている日本の楽曲をもっと知りたい』という欲求が生まれているということも考えられると思います」

〈Gacha Pop〉のプレイリストに入るとどんなメリットがあるのか。最後に改めて聞いた。

「このプレイリストをきっかけに、アニメやゲームだけでない、様々な日本のカルチャーに興味を持ってもらえるチャンスを創出することができたら、アーティストにとっても世界から発見されることに繋がっていきます。『BOW』がバイラルヒットしたMFSが、コールドプレイやゴリラズなどが所属するWarner Music UKの老舗レーベル・Parlophoneと契約したというニュースも先日入ってきました。そうやって世界に広がっていくきっかけ作りになればと考えています」

 
 
 
 

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