〈Gacha Pop〉がJ-POPを再定義する? 日本の音楽を海外に発信するための新たな動き

 
ネーミングの意図「何が出てくるか分からない面白さ」

「日本のポップカルチャーを括る新しいワード」を生み出す必要性について、芦澤氏はK-POPを例に出す。

「韓国は自国の音楽を海外に輸出するため、国を挙げて戦略的に取り組みを推進していった結果、K-POPという優れたジャンルが形成され、世界的に成功を収めました。それに対して今注目されている日本の音楽は、そのような戦略性をもって発展してきたわけでなく、アニメ、ゲームなどといった日本のポップカルチャーと関連しながら非常に色彩豊かで多様化した音楽が生まれ、それが結果的に海外から新鮮に映り、世界中で愛されるに至った。つまり、ある種のガラパゴス化の中で独自の発展を遂げた背景があります。ガラパゴスだったからこそ、海外目線からしたら宝探しのように新たなコンテンツを発見している感覚があるのかもしれません」

そもそもJ-POPは、「洋楽と並列に聴ける邦楽」を指す言葉として80年代末に誕生した。ここでいう「洋楽」とはアメリカとイギリスの音楽、もしくは英語詞で歌っている音楽とほぼイコールであり、それ以外は「ワールド・ミュージック」であるという時代が長らく続いたわけだが、今年4月に開催された米コーチェラ・フェスティバルでK-POPのBLACKPINK、ラテンのバッド・バニーがヘッドライナーを務めたことからも明らかなように、現在のグローバルな音楽シーンは多様化が進み、もはや必ずしも欧米中心というわけではない。

そうした時代の移ろいもあってJ-POPの定義が揺らぐなか、〈Gacha Pop〉は海外からの視点も盛り込みつつ日本の音楽カルチャーを再編成し、その独自の価値をプレゼンテーションするような役割も果たすことになるかもしれない。

「『J-POPは世界で勝負できない』という声を耳にすることも多いですが、決してそんなことはないと思っています。海外から求められている日本のカルチャーを括るワードが生まれることによって、今は点になっている現象が面で捉えられ、K-POPのような一体となった盛り上がりが生まれるのではないか。そして、J-POPという言葉は“日本の音楽”ということしか伝えておらず、今海外のリスナーを魅了している日本のポップカルチャーの多様性を伝えきれていないので、先入観のない新たな言葉を生み出した方が、新たなスタンダードとして発信できるのではないかと考えました」



そして、Spotify内で何年もかけて研究や議論を重ねて生まれたのが〈Gacha Pop〉というワードだ。

「カプセルトイのガチャガチャは日本発のおもちゃで、カラフルなカプセルの中にいろいろなものが入っていて、カプセルを開けるまで何が出てくるかわからないワクワク感があります。そして、おもちゃ箱のようなポップ感がある。“ガチャ”という短い言葉の中に、いろいろな意味が内包されているところが良いと思いました。また、海外でもガチャガチャは流行しているので、海外からしても日本っぽい語感がある言葉です。“ガチャ”のイメージがここ数年間思い描いていたイメージと合致し、〈Gacha Pop〉という言葉が生まれました」

YOASOBI「アイドル」、imase「NIGHT DANCER」、米津玄師「KICK BACK」、ずっと真夜中でいいのに。「花一匁」、Ado「いばら」、なとり「Overdose」、藤井風「まつり」、新しい学校のリーダーズ「オトナブルー」、MAN WITH A MISSION × milet「絆ノ奇跡」……。まさにジャンルもアーティストも“ガチャガチャ”で、何が出てくるかわからないワクワク感のある〈Gacha Pop〉のプレイリスト。どんな基準で選曲されているのだろうか。



「アニメ関連曲、ボカロ、ネットカルチャー発の曲、ハイパーポップ、VTuber……それらに収まらない曲も含めて、ボーダーレスに選曲しています。ジャンルを特定せず、間口を広く捉えていて、その時々で日本のポップカルチャーを象徴するような楽曲を柔軟性を持って選ぶようにしています。具体的には、担当のエディターが海外のバイラルチャートを中心にデータをかなり細かくチェックし、海外のリスナー比率が高い楽曲や、海外でヴィヴィッドな反応がある楽曲をすぐに取り入れていて、データに裏打ちされた選曲にもなっています。

このプレイリストの妙は、何が出てくるか分からない面白さ。エディターがデータを見ながらフレキシブルに『この曲はどうだろう』と思って入れてみて、反応が良かったら、ポジションを上げていくという試みも行っています」

 
 
 
 

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