スクイッドが語る、UK最先端バンドが「田舎」で発見した未来のサウンド

 
「人と環境の関わり」というテーマ

—プレスリリースでは、最初はブリストル周辺のリハーサルルームで楽曲の礎を作り、最終的にはウィルトシャーにあるピーター・ガブリエル所有のスタジオ「Real World Studio」に移ったと述べられています。こうした環境の変化が、自由で壮大なサウンドへの発展に寄与したとのこと。この“環境の変化”がどのようなもので、それが何をもたらしたのか、具体的に教えてください。

アントン:曲作りは主に2ケ所で進めていった。1つはメンバー全員で借りていたブリストルにある、狭くてボロい部屋(苦笑)。そのリハーサル・ルームで、新作の曲作りを始めたんだ。それから、Real World Studioのすぐ隣に手入れの行き届いていない、若干古びたリハーサル・スペースでも書いた。ちなみに、Real World Studioにはトップクラスの高価な機材が揃っていて、とても豪華だったよ。前作を録音したスタジオよりずっと広かったね(笑)。

—“環境”の話についていうと、「バンドのメンバー全員がイギリス西海岸と強い結びつきがあり、それはレコーディングの過程でさらに深まっていった」とも伺っています。

アントン:西海岸じゃなくてウエスト・カントリーだよ。

—ウエスト・カントリーは、コーンウォールやウィルトシャー、ブリストル等の南西部を指していますか?

アントン:うん。コーンウォール、デヴォン、ドーセット、サマーセット、ウィルトシャー、グロスターシャー、ブリストル等が含まれるね。

オリー:ギターのルイはブリストル、僕はReal World Studiosから15分くらいのところにあるチッペナム出身で、アントンはマールボロに住んでいたことがあるから、グルっと一周して元の場所に戻った気持ちになった。というのも、うちの家族と仲の良い友人にReal Worldで働いている人がいるんだ。それから、僕が17歳の頃は通勤電車から見える伝説的なReal World を毎日眺めていたから、今回自分があのスタジオでレコーディングすることになり、感無量だった。

新作では、ウィルトシャーにある石、Devil’s Denを題材にした曲を書いた。Devil’s Denは3枚の石でできた古代の埋葬室で、3枚の石の上に冠石が乗っている。これは、どこかにいざなう出入口らしく、冠石の窪みに水を入れておくと夜に悪魔がやってきて、水を飲んで行くという言い伝えがあるらしい。



—「この作品には、人と環境の関わりというテーマが一貫してある」というルイス・ボアレス(Gt, Vo)のコメントがプレスリリースにありました。それに関連して、スタジオ周辺で行われたフィールドレコーディング音源も用いられているとのこと。スタジオ周辺はどんな環境で、そこからどんなインスピレーションを得て、どのように録音が進めていったのでしょうか。

オリー:自然や田園に囲まれ、静寂に包まれたレコーディング環境で、新鮮だったね。間違いなくアルバムに反映されていると思う。以前ロンドンにあるダンのスタジオで録音した時は都会から逃れることはできなかった。スタジオ内は騒がしいし、外もうるさくて。レコーディング後にパブへ行くとまた騒々しくてね。一方、Real Worldの周辺は静けさに包まれていて、最高だった。野原で曲を書いたり、楽曲アレンジを考えることができ、集中できたのが良かった。このアルバムでは、そういった感覚を味わうことができると思う。

アントン:今回の作品は英国の田舎(カントリー)で取り掛かった訳だけど、英国では野生動物や生態系が被害を受けている。これは大問題だよ。例えば、人間によって彼らの生息地が荒らされたり、古代からある森林や大自然の破壊が進んでいる。田舎にいると、そういったことを考えずにはいられないよね。

Real World Studioの外観

—その音源が使われているのは具体的にはどこでしょうか。例えば、「Undergrowth」のイントロで聴ける、密林に反響する嘶き(いななき)のようなサウンドはフィールドレコーディングなのでしょうか。

アントン:間違いなく馬は参加していないから、何だろう(笑)?

オリー:でも、ちょっと馬の鳴き声みたいに聞こえるよ。

アントン:もしかして、僕のギターのスライド奏法かな?ギターじゃない?

オリー:いや、ガチョウかも?(笑)。

アントン:サックスの音色かな? たくさんの馬たちがいろんな楽器を演奏しているから(笑)。

— この「Undergrowth」のイントロからは、個人的にはポップ・グループやディス・ヒートを連想させられたりもしますが、ここにサックスが入ってくることで、チェンバーロックやジャズに通じるアカデミックな雰囲気が一気に増すのが興味深く感じられます。ラフな感じと上品な感じが巧みに混ぜ合わされているけれども、そこに違和感がないわけではなく、その違和感自体を味わわせることが一つの主眼になっている印象です。そのあたりは「人と環境の関わり」というテーマにも通じることに思われますが、いかがでしょうか?

アントン:うん。アルバムの大半は、環境と人間の関係に触発されていて、もしくは、そういった内容を無意識のうちに考えていたと思う。オリーの話と重複するけど、確かに僕らは環境について言及している。でも、歌詞内容や曲作りの段階で決めたこと以上に、自分たちが考えたり感じたことが織り込まれ、それがバンドの音楽を生み出していると思う。人間と景観との関係、あるいはウィルトシャーという土地で録音する意義だとか。だから、「こういうテーマに関する曲を書こう」という風に話し合うことは特になかったね。



—先述のテーマとも関係する話ですが、歌詞を作るにあたって特に意識したことはありますか。歌詞で語られている内容についても、サウンドとしてのボーカルを活かすための音韻遣いの面においても。

オリー:アルバム全体として、歌詞を書く過程では本当に苦労したし、あまりいいことじゃないけど、かなりストレスを感じていた。今こうして振り返ると、もしかしていい経験だったのかもしれないけど(苦笑)。そういう状態の中、 ダン・キャリーは、僕の歌唱表現やボーカル・デリヴァリーが進化するように助けてくれた。歌詞内容というよりも、新作ではボーカル・デリバリーに重点を置いたと思う。つまり、シャウトするのではなく、歌うことを心がけた。僕らは本当に頑張ったと思うよ。想像していたより時間がかかったし。

—ボーカルの歌い方に関しても同様の変化があると感じます。『Bright Green Field』では個を主張する場面や調和をかき乱そうとする仕掛けが少なからずありましたが、『O Monolith』ではそれよりも声がアンサンブル全体のまとまりに寄与する傾向、混沌も生み出しつつその上で新たな調和を生む表現がなされている印象があります。

オリー:前作の「調和をかき乱そうとする仕掛け」というのは非常に面白いね。このアルバムでは、他のメンバーが書いたメロディがとても秀逸だったこともあり、すでにあるメロディから逸脱したり、衝突するようなボーカル・メロディは書きたくなかった。それよりも、メロディや基盤となるものに連動させた歌メロにしたんだ。


Photo by Michelle Helena Janssen 2023

—ここまで話したこと以外に、アルバムの制作過程で特に大変だったこと、バンドとしてこだわったポイントはありますか。

オリー:うーん、全て大変だったよね(笑)?

アントン:(笑)。(レコーディング中の)ライブテイクは結構スムーズにいったから、あれは良かったね。何度も録音し直す必要もなかった。そうだな、大変だったのは、ツアーと並行してソングライティングを進めていたこと。バランスを取るのが大変だった。ベストな曲作りと、ツアー中にいい精神状態を保ち、リラックスしてエネルギー補充を両立させるのが難しかった。 ツアー中は家族と離れていたし、パーソナルな面でも大変だったね。でも、レコーディングはスムーズだった。オリーが話したように、歌詞はレコーディングの直前に書いたものが多かったし、他にも色々あった。例えば、クワイアの録音日を1日間違えていて、僕がクワイアの歌詞を仕上げたのは、彼らのレコーディング日の朝だった(苦笑)。もう大急ぎで書き、アレンジしたよ!

Translated by Keiko Yuyama

 
 
 
 

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