デペッシュ・モードが今も愛され続ける秘密 後世のカルチャーに与えた影響を再検証

 
音楽性やファッションに見られる「美学」

そのサウンドのみならず、長年一貫性を保っているデペッシュ・モードの個性的なコスチュームやヴィジュアル・イメージも、彼らが多種多様なクリエイターたちから支持される大きなポイント。彼らの“ノワール”なイメージに80年代から貢献してきたキーパーソンが写真家/映像作家のアントン・コービンで、2020年に限定発売された写真集『Depeche Mode by Anton Corbijn』は約10万円という高額にもかかわらず完売、翌年に廉価の普及版が発売された。最新作『Memento Mori』のアート・ディレクション、シングル「Ghosts Again」の監督もコービンが手がけている。



ファッション界に与えた影響も小さくない。2019年には原宿にも店舗があるニューヨークに拠点を置くブランド、NOAHがデペッシュ・モードとのコラボでカプセルコレクションを発売。『Violator』に収められた4曲、「World In My Eyes」「Personal Jesus」「Enjoy The Silence」「Policy Of Truth」をテーマにしたジャケット、ニットウェア、フーディー、Tシャツ、アクセサリーなどを含む計13ピースは、ジャケットやMVから引用したイメージも配され、細部までこだわり抜いたコレクションになっていた。

NOAHの公式サイトに掲載されている文章(署名がないが、恐らく同ブランドのファウンダー、ブレンドン・バベンジンによるものだろう)を読むと、『Violator』というアルバムがリリース当時どれほど斬新に響いたか、具体的に思い出させてくれる。

「デペッシュ・モードは、私たちがすでに愛してやまなかったエレクトロニック・ミュージックに、有機的で新鮮に感じられる方法で、生楽器を織り交ぜる方法を発見したのです。作為的に見えない、テクスチャーのレイヤーを加えて真の経験を構築する新しい方法は、とても受け入れやすく、豊かな想像の世界に没頭することができました」

やはり大きな転機は1990年の『Violator』(全英2位/全米7位)で、ここでジャンルを越えて幅広い影響力を誇るグループへと大きく躍進した。これまでにカバーされた曲を見てみると、「Enjoy The Silence」が圧倒的に多く、パンク・バンドのノー・ユース・フォー・ア・ネイムから、ゴシック・メタル・バンドのラクーナ・コイル、オルタナのナダ・サーフ、果てはR&B/ジャズ・シンガーのパティ・オースティンまでと、数限りないカバー・バージョンが世に出ている。サウンド云々以前に、楽曲の質の高さを認められたがゆえの現象だろう。同じく「Personal Jesus」も凄まじい人気で、ジョニー・キャッシュにニナ・ハーゲン、マリリン・マンソン、デフ・レパードと、まったく異なるジャンルの人々がこぞってカバーしている。






Depeche Mode discography 90's〜10's
『Violator』(1990年):「Personal Jesus」「Enjoy the Silence」収録、バンド史上最大のヒット作
『Songs of Faith and Devotion』(1993年):「I Feel You」「Walking in My Shoes」収録、オルタナの影響を反映
『Ultra』(1997年):「It’s No Good」「Barrel of a Gun」収録、暗くヘヴィな歌詞とサウンド
『Exciter』(2001年):「Dream On」「I Feel Loved」収録、マーク・ベル(LFO)を迎えてエレクトロニック回帰
『Playing the Angel』(2005年):「Precious」「Suffer Well」収録、新たな黄金期の始まり
『Sounds of the Universe』(2009年):「Wrong」収録、レーベル移籍でより強固になったサウンド
『Delta Machine』(2013年):「Heaven」「Soothe My Soul」収録、ブルージーでオーガニックな円熟の境地
『Spirit』(2017年):「Where's the Revolution」収録、デカダンスな雰囲気を漂わせる貫禄のアルバム


デペッシュ・モードが他のアーティストへ与えた影響について改めて考えるときに、トリビュート・アルバム『For The Masses』(1998年)はやはり外せない。一見遠そうだがダーク・ウェイヴ的な文脈で見ると重なる部分もあるザ・キュアーは、「World In My Eyes」をデペッシュ側に寄せたアレンジでカバー。打ち込みを多用するようになった時期のスマッシング・パンプキンズが「Never Let Me Down Again」を取り上げているのも、英米の国境を越えたファミリー・ツリーが見えてきて面白い。そうしたロック・バンドやテクノ勢などと並んで、デフトーンズやラムシュタインもこのアルバムに参加したことに、影響の広がり具合が如実に表れていると思う。



 
 
 
 

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