マッドリブとMFドゥームの歴史的名曲「Accordion」が生まれるまで

マッドリブ(写真左)とMFドゥームのコラボレーション・アルバム『Madvillainy』は、発表から約20年を経た現在でも、世界中のオーディエンスに愛され続けている(Photo by EDD WESTMACOTT/AVALON/GETTY IMAGES; PETER KRAMER/GETTY IMAGES; XINZHENG/GETTY IMAGES)

マッドリブとMFドゥームによる伝説的ユニット、マッドヴィレインが残した傑作『Madvillainy』は2004年にStones Throw Recordsからリリースされた。ドゥームのリリックとマッドリブのプロダクションが高次元で結びついた同作は、ヒップホップの世界にとどまらず、あらゆる世代の音楽ファンを魅了し続けている。Bloomsbury Publishingの長寿人気シリーズ、33 1/3 series of music booksの新作としてこの春に刊行された『Madvillainy 33 1/3』で、著者のウィル・ハグルは同作の制作に携わった人々のインタビューを軸として、マッドヴィレインの物語を紐解いていく。同書からの抜粋となる本記事では、熱心なファンによって完成前の『Madvillainy』がオンライン上でリークされるという事態を経て、同作の中でも最も人気の高い曲のひとつが生み出されるまでを描く。

【写真を見る】『Madvillainy 33 1/3』の表紙写真

アルバム発売の数カ月前にサイバースペース上にリークされるという事態によって、マッドリブとMFドゥームが同作を作り直す必要に駆られなければ、「Accordion」は生まれなかったかもしれない。それは音楽史にとって大きな損失だったと明言できるほど、同曲のインパクトは大きかった。イントロに続くこの「Accordion」以上に、『Madvillainy』の幕開けにふさわしい曲はない。ミステリアスでリスナーを催眠術にかけるかのようなトーンは、不吉でありながらも魅惑的なアルバムの世界観を象徴している。



そのループは『Madvillainy』によって無数のリスナーの脳に刻み込まれることになったが、デイダラスことアルフレッド・ダーリントンがそのメロディとリズムを考えついたのは、1996年か1997年にUSCでピアノの授業を受けていた頃だった。それはダーリントンがデイダラスとして2002年に発表したデビューアルバム、『Invention』収録の「Experience」で初めて世に出ることになる。



「あのレコードのコンセプトは、サンプルとアコースティック楽器のトーンを、両者の区別がつかないほど自然なやり方で組み合わせることだった」とデイダラスは語る。「『Experience』は、楽器の生演奏だけで作った数少ない曲のひとつなんだ」

「Experience」でデイダラスが弾いているのは、Magnus 391 Electric Chord Organだ。Magnus 391 Electric Chord Organは、今時のビートメイカーがラップトップのDAWでMIDIデータの入力に使う小ぶりなUSBキーボードのように見えるが、実際にはより大きく重さもあり、1950年代と60年代に登場して以来グランドピアノの代用品として使用されていた。アコーディオンと同じく、その楽器の機構にはファンが採用されている。鍵盤を押すことで風がリードに送られる仕組みで、ハーモニカのようなトーンを奏でることができる。

そんな「Experience」のフレーズをサンプリングして、マッドヴィレイン「Accordion」は生まれた。マッドリブがループしたそのセクションは、デイダラスによるパフォーマンスの一発録りではない。なぜなら、あのフレーズを弾くには両手では足りず、もう2本の腕が必要だからだ。デイダラスは交錯する2つのセクションを、プロトゥールズ上でレイヤーさせている。バックグラウンドのコーラスはデイダラス本人によるものであり、サックスを吹いているのはローカルのジャズ界隈で名を馳せていたベン・ワンデルだ。

Translated by Masaaki Yoshida

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE