IC3PEAKが語る、ロシアで論争を呼んだ二人組の素顔

アイスピーク:左からニック、ナスチャ

モスクワ出身。ニックとナスチャの二人組のIC3PEAK(アイスピーク)。彼らの表現も音楽とビジュアル・アートの融合で、サウンド的にもハイパーポップ的なジャンルレス感でメタルまで飲み込む自由な振り幅を持っており、ブリング・ミー・ザ・ホライズンのオリヴァー・サイクス、グライムスとコラボもしている。リリックでは孤独、裏切り、愛、死といった普遍的なテーマを扱っていて、政治的な風刺を入れた「Death No More(Смерти Больше Нет)」のMVにより、ロシアでは論争を呼ぶ存在となった。

【動画を見る】「Death No More」ミュージックビデオ

ー二人はどのように出会い、IC3PEAKの結成に至るのですか?

ニック けっこう前から知り合いなんだ。IC3PEAK以前の僕は、ソロでエクスペリメンタルなベース・ミュージックをやっていた。スロッピング・グリッスルが大好きだったから、彼らのようなインダストリアルな曲を作ろうと思って。1曲出来た後、スゴくシンプルなトラップ・ビートを乗せてみたら、ナスチャがそこにスクリームを乗せたんだ。それで出来た曲が面白かったから、ネットで発表したところ、今までで最大の反響になったんだ。これは何かあるなと思って、プロジェクトを始めることにした。

ナスチャ 私は最初ニックのプロジェクトでビジュアルの手伝いをしてた。私は私で、女の子5人のグループでノイズを出して、ジェンダーやフェミニズムをテーマにしたアート・パフォーマンスをやってた。ニックとは、スゴくエクスペリメンタルなことをいろいろ試してやってみたくて。当時のモスクワには音楽性は違うけど、同じようなダークネスと絶望感を持った音楽のシーンが生まれていた。ウィッチハウスと呼ばれることもあったけど、スゴく独特だったし、4000人もの人が集まる非合法のパーティも行われていて、そこには自由があった。



ーIC3PEAKはロシアで論争を呼ぶ存在になりましたが、何が起こったのでしょう?

ニック 僕たちは政治的な風刺を「Death No More(Смерти Больше Нет)」という曲のMVに入れたんだ。そのMVはかなり反響を呼んだんだけど、当局からの検閲が入って、予定していたツアーがすべてできなくなった。彼らはライブ会場のクラブに来て、クラブを潰すなどと脅しをかけたり、窓を破ったりしたから、クラブからライブのキャンセルが相次ぐことになって。他でライブ会場を探して、駐車場みたいな場所でライブをやったんだけど、大体のライブは2曲ぐらいやるとFSB(ロシア連邦保安庁)とか警官が来るんだ。どの都市でライブをやっても妨害されたし、手錠をかけられ、パスポートを没収され、警察署に連行されて、4時間拘留されることもあった。僕的には、最初は面白いと思ってたんだ。純粋にアドレナリンが溢れたし、自分たちは間違ってないと思ったし、人々やメディアからのサポートもどんどん大きくなっていったからね。ただ、その後に本当の危険が僕たちに迫ることになるんだけど。

ナスチャ 私が「Death No More」のフックを書いたのは、プーチンの演説を見た後のことで。困難があったとしてもロシアは強い国だから生き残っていくみたいな内容の演説で、私たちに耐えろって言ってる。私は涙を流した後、この曲で様々なメタファーを使って、今何が起こってるのかを伝えようとした。私たちは政府や宗教から、今となっては不必要な古い伝統を押し付けられてるから。ダークな内容だけど、ユーモアも入れて作った。MVでグレーな都市の中で真っ黒なフーディを着てるのは、私が感じたことを表現していて。同時に、立派な建物に囲まれてるんだけど、その建物は政府の権力の誇示で、自分の気分とは関係がないもの。ロシアにいると、自分は小さな存在だと思わされてしまうから、そのことを描いている。この曲がビッグになって、多くの抗議デモで使われるようになると、人々にとって聖歌のような存在になって、それには自分でも驚かされた。決してうれしいことではないけど、私たちの音楽が人々にとって解放を意味するのであれば、私たち一人ひとりが孤独ではないということにもなる。私たちが音楽をやる一番の動機は、まさに孤独からの解放にあるから。



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