M83が語るファンタジー、シューゲイザー、10代の輝きを求め続ける理由

過去との向き合い方、シューゲイザーとの出会い

―ニューアルバムを制作するにあたって、あなたは「バンドのフィーリング」を追求し、デモではなくジャムから曲作りを進めていったそうですね。具体的な制作プロセスについて教えてください。

アンソニー:今回は、ライブで演奏することができて、人々が僕たちの演奏を見ていて興奮できるようなアルバムを作りたかったんだ。前回のアルバム(2019年作『DSVII』)では、全て自分一人で作り始めたんだけど、今回はそれとは違った。ミュージシャンたちと直接的に感情を共有し、同じ言葉とビジョンを共有することで、素晴らしいグループの友情から生まれたパワフルな作品を作りたかったんだよね。

プロセスでいうと、まずは同じ部屋に集まりジャムをして素材を作り、それを僕が家に持ち帰り、そのパズルのピースをあとから組み立てていったんだ。アルバムというものは、常にミスやエラーがつきものだと思う。人工知能の影響が非常に強い今の時代、こういった作り方で作れば、作品がより人間的なものになるんじゃないかと思ったんだよね。アルバムを人間的なものにする、というのも重要だった。




―今作のプレスリリースで、『Before The Dawn Heals Us』に言及されていたのも印象的です。あのアルバムは改めてどこが気に入っていますか?

アンソニー:今回のアルバムを作るにあたって、あの頃の音に戻りたいという気持ちがあった。古いアルバムのサウンドを再現したいとまでは言わないけど、過去にやったことを全て消化しながら、リスナーにとって新しくエキサイティングなものを作りたいと思ったんだよね。だからこのアルバムは、古い作品が好きな人にも、『Junk』が好きな人にも、両方にアピールするような作品になっていると思うよ。


『Before The Dawn Heals Us』収録曲「Don't Save Us From The Flames」

―2011年の『Hurry Up We're Dreaming』と、ちょうど話に出た2016年の『Junk』は、それぞれキャリアの転機となった作品だと思います。あなたが今、どのように評価しているのか聞かせてもらえませんか? 

アンソニー:それを言葉にするのはすごく難しいな。どちらとも僕の人生の一部だけど、あまりどう思うかについて考えたことがないから。あえて言うなら、親しみやすい幽霊みたいな存在かも(笑)。過去からの親しみやすい幽霊(笑)。もちろん、その両作品のスタイルは大好きだよ。でも、自分の作品に関しては、作り終えたものについてはあまり振り返らず、前を向いて次に何があるのかを考えるのが好きなんだよね。過去の何かについて考えるのはそこまで好きではない。


『Hurry Up, We're Dreaming』収録曲「Midnight City」



―今回の『Fantasy』はシューゲイザーの要素が蘇っているのも大きなトピックだと思います。そもそもアンソニーさんは、そういった音楽とどのように出会い、なぜ自分の表現に取り入れようと思ったのでしょう?

アンソニー:シューゲイザーが好きになったのは若い頃。12歳くらいの時に兄からマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのカセットを渡されて、その音に一瞬で惹かれたんだ。すごく新しくて、クリエイティブで、ドリーミーでありながら同時にパワフルでもあったから。プロダクションはすごく難しいのに、それを感じさせない美しさも素晴らしい。スロウダイヴもそうだよね。

そういったシューゲイザーの魅力を、もちろん自分の音楽にも取り入れたいと思っている。でも僕の音楽にはシューゲイザーだけでなく、80年代のポップの要素や、80年代のサウンドトラックからの影響も含まれていると思う。影響を受けた音楽がたくさんブレンドされているからね。

―『Fantasy』におけるハイライトの一つ「Earth To Sea」の歌詞は、"May all of me Be forgotten"(僕のすべてが忘れ去られますように)という一節で締め括られています。NMEによる最近のインタビューでも“I just want the world to forget about me”(僕はただ、この世界から忘れ去られた存在になりたい)という発言が載っていました。どちらも本心から出てきた言葉でしょうか?

アンソニー:僕はただ、自分の音楽だけが記憶されることを望んでいるんだ。僕自身のことは記憶されなくてもいい。最近はアーティストイメージのほうが大きく取り上げられたり、重要視されたりする傾向が強くなっているけど、アートにおいてより重要なのは、その人のプライバシーではなく、芸術と音楽そのものだと思っているからね。家族や友達にはもちろん僕のことを覚えていてほしい。でも、自分が知らない人々には、僕自身ではなくて僕の音楽のことを覚えていてほしいんだ。

―逆に音楽やアートにまつわることで、今では忘れ去られつつあるけど、みんなに思い出してほしいことは何かありますか?

アンソニー:今の社会では、毎日たくさんの新しい音楽がリリースされて、たくさんのコンテンツで溢れかえっている。その膨大なコンテンツの中で、僕たちは迷子になってしまっているよね。だから僕は、昔の音楽を聴いたり、古い映画を観たりするようになっている。現代のコンテンツも、僕の頭のなかに少しは入り込んでいるけれど、数が多すぎて、全てを把握するのがすごく難しいんだよね。昔の素晴らしい作品に注目してみるのもいいと思うよ。



―このあと『Fantasy』のツアーも始まりますよね。ライブセットはどのようなものになりそうですか? 

アンソニー:昔のアルバムの曲はもちろん、『Fantasy』からもたくさん演奏したいと思ってる。あとはユニークなショーにするべく、最高のバンドを迎えている。ギターとシンセをたくさん起用した、6人組のバンドになる予定なんだ。すごくクールなショーになると思うから、めちゃくちゃワクワクしてる。

―日本でのライブも期待しています。今日はありがとうございました。

アンソニー:ありがとう!




M83
『Fantasy』
発売中
再生・購入:https://virginmusic.lnk.to/M_Fantasy
日本公式ページ:https://www.virginmusic.jp/m83/

Translated by Miho Haraguchi

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