フィービー・ブリジャーズ来日直前取材 日本と「Kyoto」の記憶、同性愛嫌悪への怒り

フィービー・ブリジャーズ(Photo by Mauricio Santana/Getty Images)

2月18日(土)京都MUSE、2月20日(月)大阪NAMBA HATCH、2月21日(火)東京Zepp DiverCityと日本ツアーを廻る、フィービー・ブリジャーズ(Phoebe Bridgers)の来日直前インタビューが実現した。

フィービーが2019年2月の初来日公演で披露した、繊細でエモーショナルな歌声は今でも忘れられない。あれから4年が経過したわけだが、2020年の2ndアルバム『Punisher』の成功と、その後のめざましい活躍によって、彼女を取り巻く状況は一変した。熱狂的なファンベースでも知られるフィービーだが、同業者からの愛されぶりも凄まじく、最近もビリー・アイリッシュと共演し、全米チャート8週1位を達成したSZAのアルバム『SOS』に参加、今年5月からはテイラー・スウィフトの「The Eras」ツアーに帯同する。近年、インディーロックの世界で、ここまで求められているアーティストは他に見当たらない。

その一方で、盟友のジュリアン・ベイカー、ルーシー・ダッカスとのトリオ=ボーイジーニアスを再始動させてデビューアルバム『the record』を作り上げ、USインディーの精神的支柱ことザ・ナショナル(フィービーは2020年の来日公演に帯同予定だったがコロナ禍でキャンセル)の最新作『First Two Pages of Frankenstein』にもゲスト参加(前者は3月31日、後者は4月28日リリース)。ボーイジーニアスが表紙を飾った米ローリングストーン誌のインタビューでも、みずからを「根っからのインディー人間」と形容していたが、自分らしさを見失うことなく充実した活動を送り続けている。

彼女がこれほどの人気者になったのは、感傷的なソングライティングの技術と共に、抜群のユーモアセンスとロックスター的ともいえる大胆さ、世の不条理に「F**k」を突きつけるアティテュードを兼ね備えていたからだろう。つい1週間前に開催された豪メルボルン公演でもこんなことがあった。当日の会場は、収容人数7500人とされるマーガレット・コート・アリーナ。その名前はオーストラリアの著名なテニス選手であるマーガレット・コートに由来しているが、彼女は同性愛を「悪魔の仕業」と語るなど、近年は差別発言で物議を醸してきた。そのことを知ったフィービーは「(会場の)名前を変えろ!」と語り、ライブの途中に「F**k Margaret Court!」のチャントを扇動してみせたのだ。

会場一帯が大合唱に包まれたわけだが、そのときのMCもフィービー節が全開だ。「"Hate"は過小評価されていると思う。“憎しみはよくないもの”というのは、白人至上主義的で奇妙な考え方じゃないかな。歴史はいつだって"Hate"が動かしてきた。"Hate"という感情が自分自身を守ってくれる。どうして怒っちゃいけないわけ?」。

この話が日本で暮らす人々にとって、他人事でないことは言うまでもない。急遽決まったZoomインタビューだったが、フィービーは短い時間のなかで饒舌に語り倒してくれた。Q&Aに「(笑)」がたっぷり出てくるのはご愛嬌。本当に小気味よく笑うチャーミングな人で、彼女の声を聞くと生きる活力が沸いてくる。



―2021年から始まった「Reunion Tour」も、日本で一旦フィニッシュですね。パンデミックを経てのツアーとなったわけですが、どんな経験になりましたか?

フィービー:最高。終わっちゃうのが悲しいくらい。だって、ほんとに楽しいし日々感動してるから。パンデミックの後ってこともあって余計に感慨深いのもあるし、久々にみんなに会えてお客さんが一緒に歌ってくれてさ。もう本当に感激してる。次のツアーを今から楽しみにしてるくらいだよ。

―『Punisher』がリリースされてから初めてのライブとなります。収録曲をライブで演奏したり、オーディエンスからの反応が寄せられるなかで、あのアルバムについて発見したことはありますか?

フィービー:そうなんだよ、みんな自分の曲をこんな風に解釈するんだって発見があって面白い。「Graceland Too」とか、みんな一緒に歌ってくれるんだけど、あの曲の中に“この瞬間のために今までずっと耐えてきたんだよ”(Said she knows she’ll live through it to get to this moment)って歌詞があって、そこをお客さんが「今日このコンサートに来るために耐えてきたんだよ」っていう意味で私に歌い返してくれるんだよね。本当にジーンときちゃう。どのステージでも毎回そういうスペシャルな瞬間があって泣けてくるし、みんな大好きって思う。



―ライブで演奏しながら、特にエモーショナルになる曲はどれですか?

フィービー:実は先月、父親を亡くしてるんだよね。「Kyoto」っていう、自分の京都滞在中のエピソードについて書いた曲があるんだけど、あれは父親にあてて書いた曲なんだ。だから、ステージで歌ってても父親のことを思い出して泣けてきちゃう……あ、いい意味でね。そうやって自分の深い悲しみを分かち合えるって、すごく特別だし美しい瞬間を体験させてもらってるなあって思う……。そもそも父親のことがなくても、前からすごくライブでやるのが好きだった曲ではあったし、とりあえず楽しい曲で! みんなが声を張り上げてあの曲を歌ってる姿を見ると、こっちまで元気になる!

―その「Kyoto」が京都で披露されるというのも、今回のジャパンツアーの大きなトピックですよね。もちろん、大阪や東京でも披露されると思いますが。

フィービー:ほんと、日本で作った曲がようやく日本に里帰りするみたいな(笑)。この曲はさっきも言ったように父親との思い出もあるし、それ以外にも、京都の川沿いを散歩してるときに素敵なカフェがあって……あのとき時差ボケで頭がちょっとおかしな状態だったんだけど、京都の竹林の中を散策してるときに自分の中ですごく響いたっていうか、スピリチュアル的に「あ!」って、何か繋がったような感覚があって。もう一度同じ場所に行って、あの感覚を味わってみたい。すごく楽しみにしてる。



―4年前に来日したときもインタビューさせてもらいましたが、あのときから今日までは激動の日々だったかと思います。あなたにとって、この4年間はどんな意味を持つものになりましたか?

フィービー:あのときの取材、覚えてるよー! インタビュアーの人が本当に私の音楽をよく聴いて調べて、丁寧に質問を考えてくれてるんだなってことが伝わってくる濃い内容だった。当時はまだ今みたいに注目されてなかったら、すごく感激したのを覚えてる(笑)。

あのときから4年間ずっと上を向いて頑張ってきて、キャリア的にはおかげさまでずっと上向きで来させてもらって。前よりもずっと多くの人達が自分の音楽を聴いてくれるようになったし。前回日本に行ったときに『Punisher』の曲をやったのを覚えてるけど、あのあと正式にアルバムの形になって、リリースから3年の時を経て、ようやく日本に行くんだなって思うと感慨深いよね。うん、この4年間はいい感じだったと思う。そりゃまあ、アメリカの今の政治状況とか戦争とかコロナとか挙げだしたら最悪だけど、少なくとも音楽や仕事に関してはいい感じだった。

―この4年間を振り返ったとき、個人的に今でも忘れられないのが、2021年の「サタデー・ナイト・ライブ」におけるギター破壊パフォーマンスです。あのときギターを破壊することで、どんなことを伝えたかったのでしょう?

フィービー:いや、実際あんまり深く考えてなかったんだよね(笑)。そこまで話題になってるのも人に言われて初めて知ったくらいで。自分の友達がステージで楽器を壊すパフォーマンスとかよくやってて、昔から憧れてはいたんだ。ただ、それまではわりとアコースティックの曲が中心だったから、あのとき演奏した曲(「I Know the End」)で初めて人前でギターをぶっ壊す機会が訪れたっていう(笑)。しかもテレビ番組で、現場もみんな盛り上がってて、それ用のアンプもちゃんと用意してあって、ギターを叩きつけたら爆発する仕掛けになってて(笑)。めちゃくちゃ興奮したよ(笑)! 自分的には何も考えずにノリでワーッとやっただけで、それがここまで騒がれるとは思ってもみなかった。でもまあ、いいじゃん、とりあえずウケたし(笑)。



―あのときフィービーさんを批判した、デヴィッド・クロスビーが先日亡くなりましたね。彼については今、どんなことを思いますか?

フィービー:2年前にLAのグリーク・シアターでライブをやったんだけど、それが『Punisher』がリリースされてから初めての晴れ舞台みたいな感じで。自分のなかで、グリーク・シアターで観たライブで一番印象に残ってるのがクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングなんだけど、私は当時まだ10代で、それこそ最上階の、バンドなんて豆粒ぐらいにしか観えない席で、ただ彼らの奏でるあのハーモニーにじっと耳を傾けてた思い出があるんだよね。デヴィッド・クロスビーは昔から大好きなアーティストだし、まさに本物のレジェンド。「どうぞ安らかにお眠りください」って、心からそう思う。そりゃまあ、ちょっとバチバチやりあった時期もあったけど、それもまたお遊びというかゲームみたいなもので楽しかったし。いい思い出だよ。

Translated by Ayako Takezawa

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